きみと 逃避行

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気づけば大きな川の上の橋を通過して、その下の誰もいない広場に私を導いた。 最寄り駅よりふたつほど離れた距離にあるここは、聞いたことがあっても足を運んだことはなかった。 海につながる広くて大きな川が橋の上の電灯を反射して煌めいていた。 「俺のこと、誰かわかってる?」 ベンチに腰掛けた私の横でギターを下ろした彼がそう言うから、首を縦に振る。 「わかってなかったら、ついてこないよ」 「確かに」 開けられたケースからアコースティックギターが取り出されて、ベンチの上で胡坐をかくその上に乗せられた。 「…ひとつ、聞いてもいい?」 「うん?」 ギターの弦を調節している様子をじっと見つめながら声を出せば、ギターから移した視線がこちらに向けられた。 「どうして、『逃避行』歌わなくなったの?」 絡まった視線の奥、彼の瞳の真ん中が動揺していた。 それを逃さなかった私から逃げるように視線はギターに戻された。
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