きみと 逃避行

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逃避行。 彼が、好きだった曲。 最大のラブソングだって、自分のものように豪語していたその曲は、わたしが初めて聞いたころにはもうライブで歌われないものになっていた。 この人のバンドの中で一番有名な曲で、ミュージックビデオの再生数は8000万回を超えているし、その中の800回くらいはわたしと彼なのではないだろうかと思うくらい、それも何度も聴いていた。 …もう、聴いていないけれど。 「俺は、モノクロのまま止まってるから」 吐き出された言葉と、彼の指が掠めたギターの弦から音がこぼれた。 「…、わたしも、モノクロで止まってる」 最新曲でいて、一躍話題となっていた曲。 あの幸せなラブソングから反転、切なすぎる失恋ソングとして再び注目を浴びたその曲を、わたしはずっと聴いている。 最近テレビにも出るようになって有名になってきたこの人のバンドを、わたしは彼のおかげで好きになったと思うと少し悔しかった。 「逃避行、好きなの?」 首を横に振った。 そんなわたしをみてふ、と小さな笑みをこぼした。 「…元彼が、好きだった、いつも、歌ってた」 目を閉じれば浮かんでくる隣にいたころの思い出の背景には、いくら聴いてなくてもあの音楽が流れてくる。 そのたびに余計思い出が鮮明になって、苦しくて涙が溢れそうになる。
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