第一章 エントリーには二つの理由

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 大学三年生の由莉(ゆり)は、就職活動のための説明会に友人と一緒に参加した。  商学部マーケティング科を専攻する由莉は、広告代理店が第一希望だ。  「向こうだね」  友人の声に、由莉も視線を向けると、広告代理店のブースが並んでいる一角があった。  この業界は人気があり、大勢の就活生が集まっている。でも、そんな程度で怖がるなら、マスコミ関係の会社に入るの無理だ。  厳しいことを言われてもくじけない気持ちの強さや、簡単に(あきら)めない根性が必要だ。由莉は、持っていると自分でも思う人間だった。  彼女の通う大学はそれほど有名ではない。マスコミに強力なラインがあるわけでもない。それでも、由莉は可能性はあると思っていた。  マスコミ業界は、斬新(ざんしん)な感性を持つ人間を特に求めている。そして、取材対象に好感を持たれるような雰囲気の人間も……  由莉は、特別な感性を持ってはいないけど、容姿には自信がある。年上に可愛がられる仕草や言動を自然に取れる。  それは、この業界で働くには有利なものだと彼女は思っていた。
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