11-4

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 俺は自分のチェロケースを抱えたまま、へなへなとベンチに座り込んだ。  いや、ちょっと待って。  そういうこと?  そういうことだよな、あれは。  野上ちゃんの好きな人が俺だとしたら、俺は相当酷なことをしてきたんじゃないか?  ごめん、と心の中で謝って、熱くなった顔を手で覆う。  心臓の鼓動が頭に響く。全力で走ったときくらい、速い。血液が全身をぐるぐる回る感覚が手に取るようにわかる。混乱しているし、驚いている。  野上ちゃんが、俺を。 「……そっかあ」  そうだったのか。  全然、知らなかった。  最後に見せた、恥じらいを顔いっぱいに表した表情が目に焼きついている。  可愛い、と思った。  顔立ちが整っているとか、凛とした雰囲気が素敵だとか、すらりと身長が高くて格好良いとか、そういうことじゃない。ただ純粋に、顔を赤くして戸惑っているのが可愛いと思った。  まずい。これはまずい。いつまでたっても心臓が落ち着かない。病院に行ったほうがいいんじゃないかと思えるほどだ。何か重い病気が隠れているのかもしれない。  いや、そんなわけはない。  もう誤魔化せない感情が溢れていく。 「あ、いたいた。早川ぁー」  遠くから佐野の声がして、こちらに歩み寄ってくるのが見えた。なんだあいつ、このへんにいたのか。てっきりもう打ち上げに行ったもんだと思っていた。
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