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一般的に灌仏会(かんぶつえ)と呼ばれるお釈迦様の誕生日に執り行われる仏教行事は、花まつりとも呼ばれたりする。
そんな日に何をするか。お釈迦様に甘茶と呼ばれる、その名の通り甘いお茶をかけて信仰の意を表すのだ。
甘茶をかけるお釈迦様の像は、立った姿で右手で上を、左手で下を指している。
これはそれぞれ天と地を指しており、お釈迦様の産まれた時の姿で、この時「天上天下唯我独尊」と仰ったとされている。
そんなおめでたい日のうちのシャカは、いつも以上に喋る。うるさいほどに。
「甘茶をかける方はこちらへどうぞ」
神社にはお釈迦様の誕生日を祝おうと多くの人が訪れる。
今朝、ラジオ体操をしていた子達もやってきて、神主から柄杓(ひしゃく)を受け取っていた。
「お釈迦さま、甘茶どうぞ」
「どうぞー」
そう言ってかけてあげると、
『はぁ〜甘茶だ〜久しぶりの甘茶だ〜もっとかけて〜』
しかし、シャカの声はみんなに聞こえないので、子ども達は1、2回かけてすぐ神主の元へ行ってしまった。
『……え、ちょっと!もう終わりなの!?もっとかけてもいいんだよ!?』
「神主さまー!ちゃんとお釈迦さまに甘茶かけたよ!甘茶ちょうだい!」
「僕も!」
そう言って、神主に甘茶をねだっていた。
「はいはい、今あげるからちょっと待ってろ」
神主は紙コップに新しい甘茶を注ぎ、子供達にあげた。
『もう甘茶かけないの!?遠慮しなくていいんだよ?まだまだ余るほどあるから、どんどんかけていいんだよ?というか、かけて!かけて!甘茶かけて!』
「うるせぇ!ちょっとは黙って待てねーのか!」
神主があまりにもうるさいシャカに対して大声で怒った。だが、先程も言ったようにシャカの声は誰にも聞こえない。そのため、
「ひぃっ!か、神主さまどうしたの…!?」
「っ!い、いや、何でもないよ!はい、甘茶どうぞ!」
不安げに神主を見てくる子ども達に愛想笑いをしてその場を切り抜ける神主。元凶に文句を言いたいが、言えずにモヤモヤが残る。
『むー!もっとかけてもいいのに…あ、なんなら神主がかけてもいいよ?』
「だからっ…はぁ…頼むから少しは落ち着いてくれよ、シャカ…」
神主の胃に穴が開くのも時間の問題である。
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