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お釈迦様の誕生日を祝いに来る人の多くは地元の人達だが、最近は観光客も増えた。
今日は外国人の観光ツアーが来ていた。
「この柄杓で下の器から甘茶を掬って、お釈迦様にゆっくりかけてください」
神主の説明を翻訳者の方が英語に直して伝えてくれていた。すると、彼らは柄杓を受け取り、順番に甘茶をかけ始めた。
『甘茶かけて〜』
「Ohー!Excellent!」
『ん?日本人じゃないのかな?あ、外国の人だ〜甘茶かけて〜』
外国人達は楽しげに甘茶をかけている。シャカもシャカで何やら楽しげである。
すると
「Please」
『ん?ぷりーず?なにそれ、すごく言葉の響きがいいね!よし!シャカも使おう!』
神主は嫌な予感がした。
頼むから俺に話しかけないでくれよ…!
そう心から願っていた時
『…甘茶プリーズ!』
「…は?」
『甘茶プリーズ!甘茶プリーズ!どんどんカケテチョウダ〜イ!』
シャカは英語を覚えた。いや、もはや最後は英語ではないが、とりあえずめんどくさいことになったことは分かった。
覚えたところで俺にしか聞こえないじゃねーかと、愚痴をこぼす神主。
しかし、シャカの気持ちが伝わったのか、外国人達が甘茶を沢山かけ始めた。
『おー!甘茶プリーズ、プリーズ!』
だが、段々かける量が増えてきた。止めるべきか、いやでも、シャカも楽しそうにしてるからいいか。そんなことを考えていると
『あ、甘茶プリ…もういらん!』
あ、シャカが怒った。
しかし、何度も言うがシャカの声はみんなには聞こえないわけで
「Yeh!」
外国人達は楽しそうに甘茶をかけてる写真をいっぱい撮っていた。
『ちょ、もうかけないで!神主助けて!神主プリーズ!』
「いや、助けを呼ぶのも英語かよ」
おもわず声に出してしまう神主。ツッコまざるをえない状況。
仕方ない…
「すみません、他にも待ってる方がいるのでそろそろやめていただけますか?向こうで甘茶を渡しておりますので」
そう翻訳者を通して伝えると、テンション高めにそっちの方へ行った。神主はこっそりシャカの背後に周り、声を掛けた。
「いっぱいかけてほしかったんじゃなかったんですか」
『はぁ…流石のシャカもあんなにかけられたの初めてだよ?どうしよ、シャカ溶けて痩せちゃう』
「いや、知らねーし」
兎にも角にも、これにて灌仏会は無事終わりを迎えたのだった。
『ねぇ、神主。英語で“私を助けて”ってなんて言うの?』
「“ヘルプミー”ですけど」
『“ヘルプミー”か…よし!次からはヘルプミーって言って神主に助けを求めるね!』
「俺日本人なんで、無視しますわ」
『冷たい!でもめげないよ!なんせシャカだからね!』
神主は思った。うちで祀っている神様、どうかお願いします。このシャカ黙らせてください…
神と仏。決して相入れてはいけない関係の中、中立役の神主は今日もシャカに振り回される。
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