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いつの間にか檜山は谷川に体を預けて寝息をたてていた。
「おい……もう寝ちゃったの。早くない?」
檜山は答えない。
「起きろよ……せっかく家飲みにしたのに、ベッドじゃないところで寝るな」
目を覚ます気配はない。谷川は諦めて、買っておいた烏龍茶のペットボトルをあけてラッパ飲みした。
テレビ番組はすっかり深夜帯で、肉食系とされている俳優があけすけな恋愛トークをしていて、あっけらかんと二股をかけたなんて言っている。それでも彼は俳優として成功しているし、今は人気モデルと付き合っているのだ。別にうらやましくもないなとぼんやり思いながら、谷川は檜山が残した天むすを食べた。
自分はもっと平凡な幸せを望んでいる。普通に恋愛して結婚するのが当然だと思っていた。それが奇妙なことに男、しかも会社の同期に恋愛感情を持ってしまっている。
檜山の頭が肩に乗って、重い。酒臭い息が耳の産毛をくすぐる。檜山を抱えてベッドに連れて行くのは谷川には無理なので布団をかけてやろうと思い、谷川は抱きついたままの腕をどけようとした。これが意外にがっしりと掴まっていて、振りほどくのに苦心する。力の抜けている檜山をソファにもたれさせると、彼はうーんと唸ってもぞもぞ動いた。さっきまでと違い、平和そうな寝顔だ。こうやって無防備にされているとつい触りたくなってしまって、やっぱり自分はおかしいのかなと思う。それでも誘惑に勝てず、谷川は檜山の顔を触った。朝剃っただろう髭がうっすらと伸びている。キスしたい衝動に駆られたが、それはぐっと飲み込んだ。
谷川は立ち上がった。やはり酒が回っているのか、ちょっとぐらりとした。奥の寝室を覗くと、リビングほどではないが、脱いだ服などが散らかって雑然としている。掛布団はくしゃくしゃですこし臭いがついている。いつ干したのか、シーツは洗濯しているのかと色々考えてしまう。だらしないとわかっているのに好きだと感じているのもおかしなことだ。
檜山に布団をかけて、テーブルの上のゴミを分け、残った惣菜を冷蔵庫にしまう。汚れた皿を洗うと谷川はソファに目を向けた。檜山が起きる気配はない。谷川は鞄と上着を持つと、部屋を後にした。
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