凡ミスからの大叱責

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凡ミスからの大叱責

 中間決算の公表が終わって経理部の空気はすこし和やかになっている。ここぞとばかりに有給休暇を消化している社員も多く、毎日どこかの座席が空いていた。谷川も土日と連続して2日くらい休みを取って温泉でも行こうかと考えている。社員寮だと休暇を取っても周囲の生活音が気になってしまうから、東京を脱出するに限る。  気軽なひとり旅だし観光というよりのんびり読書ができればいいので、休暇の目処が立ったら予約サイトで適当な宿を取ってしまおうと思っているが、ちょこちょこと小さな仕事が入ってしまいなかなか踏ん切りがつかない。そんなのうっちゃって休めばいいのよと近藤にアドバイスされたが、変に仕事を残して休んだら落ち着かないまま過ごすことになりそうで、結局終わらせてから休もうと仕事を優先させてしまう。友人と行くならば先延ばしできる仕事は放っておいて休むし旅行中もひとまず仕事のことは忘れられるのだが、親しい大学時代の友人とは予定が合わなかった。  とはいえあまりぐずぐずしているとまた忙しくなってしまう。谷川は手帳を広げてしばらく考えていた。来週は木金と予定が入っていて身動きが取れない。なんだったら今週の金曜日から休んでしまおうか。会社だけでなく寮からも早く離れたくて、どこへ行くかも決まっていないのに谷川は休暇を決意していた。 「谷川くん、ちょっといい?」  顔を上げると澤井課長が立っていた。 「話があるんだけど、場所あるかな」  澤井の横で檜山が肩をすぼめている。嫌な予感しかしなかった。 「打ち合わせ用スペース……空いてるか見てきますね」  パーテーションで区切られただけの小さな一角は常に誰かいるのだが、このときは運良く使われていなかった。谷川と澤井が向かい合って座り、檜山はその隣に小さくなっている。 「うちの課長呼ばなくていいですか」 「とりあえず事実確認したいだけだから、いいよ」  澤井はそう前置きして、1枚の紙をテーブルに置いた。なんとなく見覚えがある。3週間前に谷川のところに回ってきた発注の入力データをプリントアウトしたものだ。発注者欄には檜山の名前がある。その隣には商品データベースから出力したと思われるリラクゼーションチェアの画像を印刷した紙が並べられた。1脚24,500円とそこそこリーズナブルな価格ながら、シラトリらしい優美な曲線のデザインとベーシックからビビッドまで24色の豊富な色展開で、官公庁の会議用から洒落た小売店の打ち合わせスペースまで広く使われている。
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