凡ミスからの大叱責

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「課長……俺そろそろ出なきゃいけないんで」 「ああ、そうだったね」  檜山が立ち上がる。谷川はなぜか心臓が高鳴るのをおぼえた。彼はちょっと頭をを下げて鞄を手に出て行った。谷川と目を合わせることはなかった。 「ごめんね。彼はお客さんとの打ち合わせがあって」  話は終わったはずだが、澤井は席を立とうとせず、すこし周囲をうかがった。 「もうちょっといいかな」  澤井はまっすぐ谷川を見つめた。なにを訊かれるのか。谷川は緊張しながら頷く。 「檜山くん、最近少し様子が変なんだ。いや、仕事振りは前よりしっかりしてるくらいなんだけど、なんとなく危なっかしいというか……とても元気にしているときもあれば、沈んでることもあるんだよね」 「……」 「さっきの発注ミスも、クライアントの要望をきいて商品の提案をするところまでは良かったんだけどなあ。そこから何故か急に落ち込んじゃって。そこでもっと気をつけておけばよかったな。忙しかった……なんて言い訳をしちゃいけないんだけど」  谷川はリラクゼーションチェアの画像の脇に並んでいる品番に目をやった。確かに単体とセットで番号は紛らわしいが、発注システムで品番と個数を入力すれば小計が自動的に計算されるのだから、きちんと見直していれば桁が大きすぎる、つまり入力ミスをしていることに気がつくはずだ。だいぶぼんやりしていたに違いない。 「谷川くんは彼と親しくしているようだけどなにか心当たりないかな?例えば、彼女に振られたとかさ」  そういうことならば心当たりがある以上に谷川は当事者であった。やはり自分が曖昧な態度のまま距離を置いているせいなのか。彼は遠くから谷川を見ては一喜一憂しているのかもしれない。 「気になる……というか、好意を持っている相手がいるみたいです」 「ああ、そうなんだ。谷川くんが知ってるとなると、社内なのかな」  谷川は体を固くする。別に君のことを尋問しているわけじゃないんだよ、と澤井は笑った。きっともの凄い表情になっているのだろう。 「まあ、彼は良くも悪くも正直者だから、なにか進展があれは態度に出るだろうね」  澤井は深く息を吐くとようやく立ち上がった。 「こればっかりは当人同士の問題だから僕もフォローできない。仕事とプライベートは別……といってもそう簡単に割り切れないしね」  ふたりがいなくなった後の打ち合わせスペースを片付けながら、谷川は気が重くなっていった。席に戻ったらきっと近藤が根ほり葉ほり質問してくるだろう。自分の感情の整理さえついていないのに、檜山のことを訊かれてたらきっと困ってしまう。逃げ出したい気分だった。
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