本音

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本音

 せっかく資金があるのだからと乗り換え駅のデパ地下でちょっと値段の張る惣菜を買い、寮の最寄り駅のコンビニで酎ハイやカクテルを買い、1万円をほとんど使い切って檜山の部屋に到着した。  リビングは確かに散らかっていた。檜山はここ何日かずっと午前様でと言い訳をしているが、その程度でここまで散らかる訳がない。現に、消費期限が2週間前になっているコンビニ弁当の容器がテーブルに置きっぱなしになっていた。酒盛りを始める前にまず掃除をしなければならない。  とりあえず大人がふたり座れる空間を確保して、テーブルの上もきれいにし、ついでにシンクに溜まった食器も洗った。できるだけ洗い物を出さないようにしたいなと思いながら皿を少し持ってリビングに戻ると、檜山はすでに500mlの酎ハイをあけていた。 「空腹で飲むと回るぞ」 「わかってるよ~」  わかってない。空になった缶を潰すとコンビニの袋をガサガサいわせて次を探している。   テレビをつけてみたが、騒がしいバラエティ番組ばかりで落ち着かない。谷川はアルコール度数の低いカクテルの缶に口をつけた。軽い酒はあまり置いていなくて仕方なくジントニックを選んだが、榎本と行った店で飲んだものとは比べものにならない。まるで甘い水である。どちらがいいとかそういう問題でもないだろうが、榎本の顔がふいに浮かぶのを、慌てて意識の外に追い払った。  檜山は急に食欲が出てきたようで、天むすとポテトサラダという腹に溜まりそうな組み合わせをもりもりと食べている。が、それにも増して酒のペースが早く、もう2本目の500ml缶を飲み干しそうな勢いだ。 「こら、いったん酒はやめて水飲めよ」  水道水に氷を入れたグラスを無理矢理渡す。この氷っていつ作ったものなのかとちょっと考えて谷川は恐ろしくなった。まあ冷凍だからきっと大丈夫……だろう。 「なんだよあのセンター長~怒鳴ることないじゃん」  檜山の顔はもう赤くなっている。 「まあ、そうだよな」 「谷川もやられたのか?」 「檜山ほどじゃないけどね」 「ええ~」  かなり惣菜を買ったのに檜山は酒ばかり飲んでいる。谷川は骨付きチキンを黙々と食べた。 「お前みたいなヤツはさっさと辞めろって言われた」 「まともに取り合わない方がいいよ。真面目なひとはメンタルやられちゃうから。みんな適当にあしらってるよ」 「でもさあ、やっぱり俺やらかしてばかりだよな~」  檜山はいつの間にか次の缶を開けている。 「谷川にも迷惑かけちゃってるしさあ」 「うーん、まあ……」 「なんだよその半端な言い方。迷惑だったんだろ?はっきり言えよ」  天むすで口をもぐもぐさせながら言うものだから悲壮感はあまりないが、檜山の目は潤んでいる。 「俺は別に構わないよ。それより澤井課長じゃないの?月曜日、ちゃんとお礼言えよ」 「課長~!」  半泣きになった檜山はテーブルに突っ伏した。
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