本音

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「いつも俺のために頭下げてくれてさあ、ホント申し訳ないんだよ。自分だって外回りしなくちゃいけないのに、一緒に謝りに行ってくれる。今日だってあのあと夜しかダメなお客さんとこに行って打ち合わせだし…… 」  なんだか気の毒になってきて、谷川はつい檜山の背中を叩いた。 「これからは少しでもポカしないように気をつけような」 「わかってるよお~」  檜山に抱きつかれて、谷川は酔いが一気に醒めた。  酒臭いのは当然だが、それ以上に腕が熱くて汗がじわりとにじむ。 「檜山……水飲んだか?」 「飲んだよお」  呂律が回らない口調で檜山が答える。 「ほら、放しなさい」 「やだよ」 「……」  檜山は腕に力を入れて谷川を抱き締めた。顔が檜山の肩に押し付けられるようになって、谷川はどきどきしながらつい身を預け、しばらくしてから我に返った。彼は酔っているし、自分もアルコールが入っていてあまり正常な思考ができなさそうだ。とにかく流されないようにしないといけないと、谷川は体を固くした。 「谷川~」 「なに」 「好きだよ」 「わかった、わかった」  適当にあしらおうとしているが、そんなことを言われると相手がへべれけだとわかっていても、やはり緊張してしまう。 「わかったってなんたよ。なにもわかってないじゃん」 「だってお前酔ってるじゃないか。そんなときに言われても信じられない」  酔っぱらい相手にマジになってしまって格好悪いなと谷川は言ったことを後悔したが、檜山はまったく負けていない。 「前も言ったじゃん。あの時は酒飲んでなかったぞ。それなのにごまかした」 「あれは……出張のときだろ。仕事中にプライベートな話をするなよ」 「ああもう、面倒臭えなあ!」  あまりの大声に、隣に聞こえていないかひやひやする。一応、家族以外の異性の連れ込みは禁止なので(守っていない奴も多いが)、誤解を招くような言葉はよして欲しい。 「じゃあ今度、仕事じゃない素面のときに言ってやる」 「はいはい」 「あ~、信じてないな」  本当に真正面から言われたら、どう反応すれば良いのだろう。ずっと檜山を避けていたせいで、実は真面目に考えていなかった。彼の気持ちに応えられないならそうと言わなければならない。でも、それは自分の本当の気持ちなのだろうか。ただ、怖くなっているだけじゃないのか?  ……どうして怖いのか。世間体なのか、自分の将来のためか?  考えたくなくなって、谷川は2本目のカクテルの缶を空にした。さすがにクラクラしてきて、もうどうでもいいような気分になってくる。
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