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「えっマジで?助かる」
檜山の顔色がぱっと明るくなった。
「谷川ならきっと見つけてくれる~」
「……何だよそれ」
とはいえ、頼られて悪い気はしない。促されるままに、谷川はサンダルを脱いで上がった。間取りは彼の部屋と同じで、入ってすぐの左側にトイレ、脱衣所と浴室、奥がダイニングで、4畳ほどの寝室が別にある。ひとり暮らしなら十分に広い。谷川はそこそこ本を持っているけれど、本棚2つくらいならまったく狭くはならない。
ところが、檜山の部屋は同じ床面積とは思えないほど狭く感じた。床には色々な物が雑然と積み上がっているし、テーブルの上には空き缶や中身が残ったペットボトルが占拠していて、隅に置かれた昨夜買ってきたらしいコンビニの袋が今にも落下しそうだ。ソファには脱ぎ捨てた服が散乱している。
「……汚ねえな」
「なに?」
「いや、なんでもない。それで、何を探してるって?」
「ワイヤレスイヤホンの片っぽ」
「……」
檜山のようなタイプにはいちばん持たせてはいけない物ではないか。
「本当に家の中にあるのかよ。外で落としたんじゃないの」
「でも、帰ってきたときは耳の中にあったと思うんだよね」
どうせ酔ってたくせにそんな記憶はあてにならないだろうと内心毒づいたが、檜山の意志を尊重してさらに確認してみた。
「じゃあ帰ったあとはずした覚えはあるのか?」
「うーん、酔っ払っててさあ、スーツのままソファで寝ちゃったんだよね。それで3時頃目が覚めて、シャワー浴びて、また寝ちゃった」
「……じゃあ、風呂場で水浸しになってるんじゃないの?」
「ええ~それは困る!高かったのに」
檜山はバタバタと浴室に走って行った。途中で何かにぶつかったのか、痛!という声がした。
谷川はソファの上に散らばった服を次々に拾い上げた。シャツが3枚、パンツが2本、下着まである。洗濯していないのか、におうような気がして、谷川は思わず鼻を近づけていた。男の臭いに心臓が高鳴るのがわかった。
足音が近づいてくる。谷川は我に返って洗濯物から顔を離した。
「無かった~」
「あ、そう」
谷川は後ろめたくなって、服を畳むような中途半端な動きをしてしまう。
「それ、洗濯しなくちゃ」
服を受け取ると、檜山はまた早足で浴室に行ってしまった。どうも効率か悪い。谷川は床に落ちているレシートやカップ麺の蓋を拾って、その辺にあったコンビニのロゴがついたビニール袋に入れていった。
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