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「谷川、何してんの」
「ゴミ回収しながら探してるんだよ……ソファで寝てるときにはずれたかもしれないだろ」
「そこさっき探したけどなあ」
檜山の探したはまったく信用できないので、谷川は無視してゴミ拾いを続けた。檜山も悪いと思ったのか、雑誌をまとめたり丸まったティッシュペーパーを集めたりしている。
しばらく沈黙が続いたせいで、谷川は耐えられなくなり口を開いた。
「昨日は誰と飲みに行ったんだ」
別に知りたいわけでもないが、当たり障りのない話題を切りだす。
「同期の吉田と中島……あと1年あとに入ったのが3人」
「ああそうか、歳が近いのがたくさんいるんだな」
「もっといるけど、この辺が気が合う感じ」
本社の営業部は大所帯だから入社時には同期が5人配属されていたはずだ。支社も含めれば営業は30人以上いて、交流もあるようだ。それに比べると、経理部は小さいし、ベテランが多い。なんで自分が配属されたのか、谷川はいまだにわからないでいる。……まあ、資格も取ったしこのまま管理部門を進んでしまうのかもしれない。あまり面白味はないが、檜山はたぶん営業から動かせないだろうから、自分も経理や総務にいればしょっちゅう顔を合わせることはない。支社にでも異動してしまえば檜山の面倒を見なくて良くなるのだろう。しかし、後任が果たして彼の滅茶苦茶な旅費申請や発注に耐えられるだろうか。
「吉田さあ、来年結婚するんだって」
「へえ、そうなんだ」
「早くないか?俺、結構驚いたけど」
「まあ、男としては早いかもしれないけど、落ち着きたかったんじゃないの」
「俺はひとり暮らしが気楽だなあ」
気楽な結果がこの有様じゃないか。レジ袋はいっぱいになり、床がどんどん綺麗になっていく。
「あっ、これも探してた。ドラッグストアのポイントカード」
「よかったじゃん」
「なんかポイントが5千円分貯まってるらしくてさ」
「……使えよ」
見たことはないが容易に想像できる。檜山はレジに並ぶとまずポイントカードの存在をすっかり忘れていて、店員に訊かれて慌てて取り出すので、ポイントを使うことなど思いもよらないのだ。
「今度、財布なしでポイントカードだけ持って買い物にいけよ。そしたら、ポイントカードで支払いできるだろ」
「え~、でも足りなかったらどうする?」
「そしたら商品戻せよ……てか、ポイントで足りるように計算してカゴに入れるんだよ」
「確かに!」
檜山は真剣な顔で頷いた。プライベートのポンコツ振りが予想をはるかに超えていて、わかっていたつもりなのに谷川はあきれ果ててしまった。
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