1人が本棚に入れています
本棚に追加
「家の中じゃあ、優しい人だよ」
──ってあいつは言うけど、本当なのか疑わしい。
いやまあ。英雄が生まれる村とはいっても小さいし、何かあるなら噂は瞬く間に広まるだろうからアルクの言葉は嘘じゃないんだろう。
正直に言えば、俺はあいつが少し羨ましい。
アルクの親父は強面だけど強いし、おふくろさんは美人だ。その両方をあいつは受け継いでいる。
ちょっとくらい妬んでも仕方ないさ。
「ルトカ!」
川に設置してある罠を見に行こうと歩いている俺にアルクが声を掛けてきた。
「おう!」
それに応えて手を上げるとアルクが駆け寄ってくる。まあいつものことだ。
俺が魚を獲って、アルクがウサギや鹿を狩る。さっきは俺にも凄い能力があるかもしれないと言ったけど、本当はそんなこと少しも思っちゃいない。
こうやって川に罠を仕掛けて魚を獲るだけ。俺には強い力なんてない。俺は強くない。
「アルク! 今日も大漁だ! ほら──」
振り向くとアルクは空を仰いでいた。
***
最初のコメントを投稿しよう!