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1. 妖精現る?
大学3年の夏休み、イギリス、クリーブヒルに行った時の事。
ぼくは、ユースホステルの裏の丘に登り、夕日を見ていた。
旅に出ると、がらにもなく「 夕日でも見るか 」などと思ってしまう。
はるか彼方まで続く、コッツウォルズ丘陵の農村風景。
珍しい地形ではなく、有名な建物があるわけでもない。
でも、その普通さがまた、心安らぐものに思えたりして。
8月なのに、寂れきったYHには、他の宿泊客はおらず。
丘の上からも、見渡す限り、どこにも人影なし。
みごとに一人きり。
夕日が、すべてを染めていく。
「 スゴイ 」
日本語 ?!
気のせい ?
2週間ほど、日本語を聞いていなかった。
振り向く。
日本人 ?
美しかった。
怖いほどの透明感。
「 広島からいらしたんですか ?」
驚いた。
本当に驚いた。
「日本から」でなく「広島から」とは。
ぼくは、まだ一言もしゃべってない。
もちろん、広島カープの帽子とか、かぶってない。
テレパシー ?
夕日を見ながら、ずっと、故郷広島の事を考えていたのだが。
「 丘の奥の森に妖精が住んでる、近づかない方がいい 」
などと、YHの受付がジョークを言ってたのを思い出した。
「 ごめんなさい、お邪魔して 」
彼女は、岩の逆側へ。
なんてことを。
ばかばかしい、妖精なわけがない。
失礼なヤツと怒らせてしまった。
とにかくあやまらなければ。
あわてて、彼女の去った側へ。
いない。
消えた ?!
ふもとまで続く草原。
隠れる所などない。
もう、ふもとに降りた ?
ありえない。
まだ、いくらも経ってない。
だとしたら、奥の森 ?
ぼくは、ふらふらと森へ。
鐘の音。
ふもとの教会 ?
マズイ。
日は沈みかけてる。
すぐ、真っ暗に。
今から森に入ってどうする。
「 妖精を追い、森に迷い込み、行方不明 」の典型的パターン ?!
ぼくは、走って丘をかけおりた。
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