金曜の夜にシュークリーム

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金曜の夜にシュークリーム

 24時間、365日休めない仕事は何かご存知だろうか。    睡眠時間は夜中に何度も起こされながら、合計で5時間程度。朝ごはんは片手で食べ、昼ごはんは立ったまま食べ、夜ごはんは残り物を3分で食べる。お風呂ではいつも光速で頭と体を洗い、湯船に浸からずにでることも多い。トイレに行くのもままならず、好きなテレビを見るのもままならず、ぼーっと考えごとをするのもままならぬ日々。デフォルトで右手に18キロ、左手に10キロを抱えており、抱えていない時には、足に誰かがまとわりついている。  というわけで正解は、母親という仕事である。  専業主婦は働いていないという人がいるが、私は声を大にして言いたい。母親というのはもはや仕事である。家事や育児や教育の専門技術(スキル)が必要なエキスパートだ。  いや、そういう意味でなく、母親とはもっと崇高な意味で仕事ではないのだと言われるかもしれない。母親とは、あふれ出る母性で子供を包み込む聖母マリアのような存在であり、それを仕事(タスク)と一緒にするなという人がいたら、それはそれで声を大にして言いたい。いくら母性があふれたところで、決してあふれかえるタスクを消化してはくれない。そんな戯言を吐く暇があったら、代わりにオムツの一つでも替えてもらいたい。  というわけで、私は今日も息子二人に潰されていた。  三歳の洋介とゼロ歳の圭介。どちらの方が手がかかるか、考えても考えても、答えは出ない。見事にどっちもどっちなのだ。ゼロ歳児が泣くと、それを抱こうとする私を押し倒し、怒られた三歳児が私の上で泣きわめく。床には三歳児が散らかしたおもちゃと、ゼロ歳児が引っ張り出して散らかした紙くず。シンクには先ほど食べた夕飯の食器が手付かずで残っており、テーブルの上も椅子の下も食べこぼしでベッタベタだ。 『昨日と同じバスで帰ります』  ブッと短くスマホが震える。夫からのLINEだ。  現在の時刻は18時52分。バスの到着予定時刻は19時35分だが、だいたい遅れて帰宅は20時前になる。昔は出張も多く帰宅が深夜を回るような残業も多かったが、会社の働き方改革によるものか、私の無言の圧力が通じたのか、2人目が生まれて中の人が入れ替わったのか、もっぱらこれくらいの時間で帰ることが多くなった。帰ってから子供をお風呂に入れられる、ギリギリの時間である。  でも、もう少しだけでも。私はふうっとため息をつく。  最初は帰ってお風呂に入れてくれるだけでも涙が出るほどありがたかったが、それが何日か続くと欲が出る。19時前に会社を出られるなら定時の17時半で帰ってこいよ、と思うのは悪いことだろうか。  今も洋介が作ったブロックの芸術を、圭介が破壊して大惨事になった。二人の不協和音のような泣き声を聴きながら、私は痛む頭を押さえた。保育園から二人をピックアップして、夕飯の準備をして、夕飯を食べさせる。それからお風呂の時間までひたすら遊びに付き合う。この時間が一日の二番目の山場なのだ。ちなみに一番は当然ながら、保育園に行く前の時間帯である。    
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