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プロローグ
スマホから軽快な音楽が流れて、俺は朝を感じた。
午前5時。今日は友達がいない俺にしては珍しく友達の予定がある。
言い方は矛盾しているけれど、どちらも事実だ。
俺には友達はいない。せっかく大学生になったのにも関わらず、飲み会にも参加しないし、サークルにも所属していないのだから。
でも今日は友達の予定がある。
そのために俺は1年前の今日以外ずっと休んでいない大学を休み、いつもより早起きしていた。
俺は、随分前からカレンダーに赤いペンで丸がついているこの日を、ずっと楽しみにしていた。
———いや、楽しみにしていた、という表現は可笑しいな。
俺はゆっくりとベッドから起きて、数秒間体を伸ばして、気合を入れる。1年ぶりのヘアーワックスで髪をキメ、肌にクリームを塗って、朝ご飯もしっかり食べて、ばっちりの格好で外に出る前に一度、鏡を見た。
君が俺を見たら、キメ過ぎだと笑うだろうか。それともニヤニヤしながら、いいねと言うのだろうか。
どちらの可能性もあるな。可能性が高いのは前者の方だろうか。
俺はそんな想像を膨らませながら、昨日買ってきた、君が大好きな真っ赤な菊の花を持って、想い出をいくつも脳内にストックしながら、外に出た。
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