ラーメン屋の想い出

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ラーメン屋の想い出

「本当は同じ大学に行くはずだったんだけどなぁ」  図書館の中で静かに呟くと、俺の腹がぐーっと鳴って、もうそんな時間かと時計を見た。 「そろそろお腹も空いてきたし、何かご飯を食べるか」  そう言って、俺たちがよく食べに行っていたラーメン屋へと向かった。  学校からの帰りによく寄って食べていたラーメン。君が醤油ラーメンで俺が塩ラーメン。  高校生の間でも何度来ただろう。多分、毎月必ず一回は行ってたから30回以上は行ってるな。  美味いんだよなぁ、あそこのラーメン。特にスープが美味い。  そんなことを想像しながら、俺は商店街まで来ると、その一角にあるラーメン屋の扉を開いた。 *** 「大将、醤油ラーメン一つ!」 「あっ、塩ラーメンで」  俺たちはそれぞれ注文をすると、ラーメンや餃子、チャーハンの匂いを嗅ぎながら、一気に食欲を沸かせる。 「やっぱりここは醤油でしょ!」 「いやいや、醤油も美味いけどダントツで塩だから」 「いやいや、醤油!」 「塩だって」  君はむくれた顔を浮かべると、「絶対に醤油!」と言った。 「まぁ好みは人それぞれだから」 「……確かに」  君は納得したような顔をすると、しばらくして大将がラーメンを俺たちの前に置く。 「来た来たー! もう腹ペコだよー。いただきまーす!」 「いただきます」  君は箸を割ると、いい食べっぷりで麺を啜る。 「ん~! 美味しい! やっぱりここのラーメンは宇宙一だよ!」 「同感」  俺はスープを飲みながらそう言った。  ここのラーメン屋はとにかくスープが美味い。特に塩がダントツで。俺はもう一口スープを飲んでから、麺を啜った。 「やっぱり塩が一番だな」 「醤油ですー」 「塩ですー」 「醤油ですー。ていうか、好みは人によってそれぞれじゃなかったの?」 「俺の中じゃ、塩がダントツで美味い」 「じゃあ私の中じゃ、醤油がダントツで美味しい」  俺たちはお互いを見て、頷くと、丼の方を向いて、麺を啜った。 「あ、そういえばさ。まこっちゃんがね、彼氏できたんだって!」 「まこっちゃんって? ああ、山田さんか。へー、そうなんだ」 「うわー、めっちゃ興味無さそうー」 「うん、興味ない」  俺は麺を啜ると、君が「優斗は恋バナ興味ないもんねー」と言った。 君の恋バナは興味あるけどね、と言いたい気持ちをスープと一緒に胃に流し込んだ。 「これでイツメン、私以外全員彼氏できたんだよー。お祭り一緒に行こうねって言ったのに! 裏切り者ー!」  君は一気に麺を啜ると、げほっげほっと咳き込む。 「おいおい、そんな誰も取らないからゆっくり食べろよ」 「私は誰と一緒にに行けばいいっていうんだ! この野郎……!」  スープを飲み干し、ドンッと音を立てながら、カウンターテーブルに空っぽの丼を置く。 「はいはい。落ち着こうな」  俺は水を勧めると、君が水を一気に飲んだ。 「ちくしょー! 私も彼氏欲しいよぉ!」 「うるさい。お店に迷惑だ」 「優斗も優しくしてよー!」 「俺は十分優しいと思うけどな。とにかく、うるさいから黙れ」  俺は荒れている君に苦笑いを浮かべると、厨房に立つ大将も苦笑いしながら君を見ていた。 「ならさー、俺とお祭り?」  俺は勇気を振り絞ってそう言うと、君が勢いよくこちらを見る。目を輝かせながら、まるで待ってましたと言っているかのような瞳で俺を見た。 「行く! 浴衣着てくね! あっ、優斗も甚平着てきてね!」 「はいはい、分かりました」  俺はスープを飲むと、「ごちそうさまでした」と言い、水を一口飲んだ。  隣では楽しそうにする君が「髪型何にしようかなぁ」と言いながら、スマホで色々と髪型を調べている。  そんなに楽しそうにされると、期待するんだけどなぁ。  そんなことを心の中で呟き、しばらくしてから俺たちはお金を払ってラーメン屋を後にした。  これが君とのラーメン屋の想い出。
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