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残り時間、4分35秒。
僕は腕時計をチラリと見て、現在時刻を確認した。
パチンコ屋の角を回ったタイミングで『午前8時15分25秒』。時間に几帳面な担任が教室に来て、朝の会が始まってから25秒が経過している。
「はぁ……はぁ……!」
白い息を弾ませ、重いカバンを抱えて走り続ける。
この時間……いつものように遅刻にはなるが、アディショナルタイムには何とか間に合いそうだ!
駅の改札からここまで温存しておいた体力の、残り全てを解放させてダッシュを開始する。
皆んなから、よく言われるんだ。
『そんなにギリギリになっても何とか間に合うんなら、もう5分早く起きればいいのに』って。
『早起き』だって? ……そんな凄いワザが使えるってんなら、こんなに慌てたりしないんだよ! いつも眠気を相手に極限のバトルを繰り広げた末に、どうにか際どい時間に勝利を収めてベッドから起き上がれるんだから。
きっとこれは……そう、『遅刻の神様』ってのがいて、僕にギリギリの勝負をさせて楽しんでいるに違いあるまい。
……ちくしょう、参ったな。
制限時間とは別に、心に焦りが生じる。『本日の遅刻の言い訳』が思い浮かばないのだ。
ウチのクラスには、遅刻について5分間の『アディショナルタイム』が存在する。
あれは新学期が始まって間もない頃だった。
僕が始業時間2分すぎに教室に飛び込んで『何とかセーフにしてください!』とダメ元で懇願してみたところ、担任がこう言ったのだ。
「……いいだろう、お前にチャンスをやる。遅刻をした理由を言え。それでクラスの半数以上が『納得した』となったらセーフにしてやる」
何も思い浮かばなくてパニックになった僕は、とっさにこう言った。
「……すいません。実は最高速で来ようとして、うっかり『ワープ航法』を使ったら間違えてバミューダ海域に出てしまったんです!」
……と。
今から考えればあまりにトンデモなネタだったけど、最初という事もあって皆んなそれで『納得』してくれた。
そしてそれ以来、僕は遅刻の度に皆んなから『何か新しい遅刻のネタ』を期待されるようになったのだ。
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