遅刻の神様に願いを。

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「な……っ! 何だ、何だ?!」  ビックリして振り向くと、そこには戦国時代の野武士みたいな風貌の男が立っていた。  さらにその両手には、刀らしき物がギラリと光っているじゃないか! 「だ……誰だよ、お前っ!」 「拙者、『宮本武蔵』と申す剣客である。その方……尋常に勝負しろっ…!」  男はそう名乗った途端に、僕に目掛けて斬りかかって来たのだ。 「うぉぉぉりゃぁぁっ!」 「えっ? えっ? う、うわぁぁ!」  何とか白刃をかわして、脱兎の如く校舎目掛けて走り出す! 「待てぇぇ! 臆したか?! いざ、勝負、勝負ぅぅっ!」  『宮本武蔵』が背後から刀を振りかざして追走してくる。  じょ、冗談じゃない! これ……夢じゃないよな? あれ、本物だよな……多分だけど!  必死に逃げ、どうにか校舎に飛び込むと、そのまま靴も変えずに階段を一気に駆け上がる!  少しして後ろを振り向いたところ、『宮本武蔵』は着いてきていなかった。どうやら振り切ったようだ。 「はぁ……はぁ……」  ヘトヘトになりながら、教室のドアをガラリと開ける。 「おぅ……来たか。今日も今日とて『ギリギリのアディショナルタイム』だ。よくもまぁ、この時間に間に合うもんだな」  担任も呆れている。 「よし……じゃぁ聞こうか。『今日のネタ』を」  クラス中から、一斉に拍手が起きる。  けど、今日ばかりは少し違う。何しろ『実体験』なんだから。 「じ……実は、そこの校門をくぐったところで『宮本武蔵』がいきなり現れて、僕に斬りかかってきたんです!」  ネタも何もない、そのまま事実なんだ。……が、しかし。 「ええ……。今日のネタ、つまんなーい!」  女子からクレームがつく。 「おいおい、流石にネタ切れかぁ?」  後ろの男子からも冷やかしの声が飛ぶ。 「いや……その……ほ、本当に……」 「残念だったな。そのネタは『没』らしい。とっとと、生活指導室へ行ってこい」  担任が背後を指差した。  くそぉ……今回ばかりは本当だったのに……っ!
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