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その3
三十歳までには。
いつしか自分に誓っていた。
結婚相手に相応しい財力のある男として、誠一さんを母親に紹介した。
誠一さん。そんな男は存在しない。
母親は、庭師の顔など覚えていない。
ユリ科の花粉は、一度何かに付着するとなかなか落ちない。
黄色い花粉が真っ白な花びらを汚すことを嫌う母親だから、きっと今頃大好きなカサブランカの雄しべを指で摘まんでいるだろう。
高濃度の神経毒が吹きかけられているとも知らずに。
年の瀬のつむじ風に、くるくると舞い上がる枯れ葉たち。
足に絡みついた落ち葉を踏みつけると、クシャリと乾いた音がした。
今年は静かなお正月を迎えられそうだ。
美穂は緩む口元を手の甲で隠しながら、庭師の待つ車へ向かった。
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