願いごと:僕は、〇〇人になりたい

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 夜間高校の教室でおしゃべりしていたら、クラスメイトのゆいさんの席から何かがすっ飛んできた。拾ってみたら、それは眼鏡メーカーのマスコットの、“見にくいアヒルの子”。目が悪いせいですっごく目を細めて何かを見ようとして目つきが悪くなっているアヒルのヒナ。正直、どこがいいのかさっぱりわからないけど、最近、人気らしい。  …世の中、なにが流行るかわからないよね。  結局、これはゆいさんのじゃなかったんだけど、このマスコットは子どものころ好きだった絵本を思い起こさせた。そう、“醜い”アヒルの子。だって、これは自分のお話だと、ずっとそう思っていたから。         ***  父さんの両親も、母さんの両親も、この国からの移民一世で。当然、父さんも母さんも、遺伝子的にはこの国の人。そのさらに子どもの僕も。みんなにはりょうさんって呼んでもらってるけど、本当の名前は亮太郎だしね。  だから、生まれ育ったあの国で、そんな名前この国の人間のものじゃない、お前は外人だ、異教徒だと言われて虐められても、仲間外れにされても、あまり気にしなかった。だって、みんなの言うとおり、僕には帰るべき本当の自分の国が別にあって、そこに行けば、皆が、仲間として“戻ってきた”僕を歓迎してくれるって思ってたから。そう、ちょうど、醜いアヒルのヒナが、白鳥の群れに戻るみたいにね。…まあ、白鳥って柄じゃないけどさ(笑)  でも、現実はそうじゃなかった。この国でも、僕は外人と呼ばれる。  僕が育った社会では当り前だったことがここではそうではなくて、行動や考え方、話し方(難しい言葉は、あまり知らないし)、そんなほんの少しの違いが、僕をこの社会における『外人』にする。ここでも、生まれ育った国でも外人。じゃあ、世界のどこに行けば、僕は外人じゃなくなるんだろうね?
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