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もちろんすぐに立ち上がるが、すかさず力ずくで座らされ、抗って立ち上がれば座らされ、を繰り返す。
「なんなんですか」
いい加減私も頭にきてしまった。
「話を聞いてくれって」
「聞きたくないです」
「頼むから」
本当はわかってる。
流れに身を任せるべきで、聞かなきゃいけなくて。
いつもなら絶対そうするのに。
愛の技量不足で惚れさせることができなかったから、陽一さんにみなみの気持ちは受け入れられないって言われるのが、聞かされるのが嫌だ。
「聞きたくないんですってば」
「みなみっ」
「いい加減に離してください」
押さえられている腕をじたばたと動かしもがけば、唐突に顎を鷲掴みにされ、キスされた。
目が丸くなる。
思考が停止し、もがいてた腕もピタリと止まる。
腕が解放され、顔を離した陽一さんを追うように、眼球だけを上に動かした。
「なんですか今の...」
「みなみが聞こうとしないから」
「いや、そうじゃなくて、普通キスします?」
「これしか思い付かなかったんだよ...」
しょうがないだろ、と言いたげに私を見てから、その場に腰を降ろす。
「だってこんな、キスで黙らせるとか、本とか漫画とかそういう妄想の産物の中では起こりうることであって、実際にやる人なんているんですか」
「いるんだよここに」
「本の読みすぎじゃないんですか」
「そうかもな」
「って、あの何やってるんですか?」
「こうでもしないと、みなみまた逃げるだろ」
キスの余韻で頭が一杯で気に留めることができなかった。
気付けば片手を繋いでいたのだ。
余計に鼓動が速まって、口を開こうとしたら、「みなみ」と遮られる。
そして手を繋いだまま、いきなり土下座をしてきた。
「みなみ!先に惚れたのは俺なんだよ!騙して悪かった!」
彼の声が居間に響いた。
いや、わからないわからない。
………どういうこと?
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