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仕返し
陽一さんの話を聞き終わっても、しばらく何も話せなかった。
何か言いかけては口を閉じるを、数十回くらい繰り返して、やっと焦点を陽一さんに合わせる。
流石にもう土下座ではないけど、正座。そして手は繋いだまま。
「あの...、とりあえずどこにも行かないので手を離しませんか?」
「あ、そうだな。悪いな...」
解放された手はどっちのともわからない手汗で湿っていた。
「ちょっと確認させてください」
「ああ」
「つまり、結論を言うと、私たちは両想いなんですね?」
「ああ、両想いだな」
「それで、先に好きになったのは実は陽一さんの方だったと」
「出会った時には惚れてたからな」
「でも私の表情や態度が淡白過ぎて、好きと言われても信じがたかったと」
「動揺してたってことだよ」
「で、浅ましくも惚れた弱みを握って、私の愛の技量を測ろうと考えたんですね」
「まあ、そう言うことだ...」
また黙ってしまったら陽一さんが顔を覗く。
「みなみ?」と私の表情で心中を伺おうとしてるようだけど、多分今いつも以上に無表情だって自分でもわかる。
「なんか、呆れてものが言えません、な状態です」
「...そうだろうな。俺も自分に心底呆れてるよ...」
小さく溜め息を吐き出す様子に、この数日間、彼もまた私のことでいろいろ悩んでいたんだと思えて、申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちが混合する。
「ていうか、あの夜に両想いだって伝えてくれたら良かったじゃないですか」
そしたら五日も満喫で過ごさなくて良かったのに。
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