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(二)
意味の分からないお母さんはオロオロするばかりだ。ばあちゃんに不安げな顔を向けた。
ばあちゃんが目をつぶって静かに語りはじめた。
「大昔にこの村に魔物がやって来たべ……」
魔物は作物を食い荒らし家畜を襲う。その家畜が居なくなると子どもを拐う。
もうダメだ。一人二人と村を捨てる者が出て来た。ある日、旅人が行き倒れになった。食べ物はなく生きる気力もない村人。誰も旅人を助けようとしない、いや助けることが出来なかった。
だが、貧しい家の若者が「どうぞこれを食べてください」と自分の食事を旅人に与えた。
「その旅人は神様じゃったのよ、若者のやさしい心根に感じ入り魔物を退治してくれたべ」
「神様なら魔物なんか簡単にやっつけられるね」
ぼくが明るく言うとばあちゃんは首を振った。
「それはそれは凄まじい戦いだったべ。亀石のある丘はもっともっと高い山だった。その山で神様と魔物は十年戦ったべ」
「えーっ、十年も」ぼくは驚いて大きな声を出してしまった。
「おかげでお山は今の小さな丘になってしまったべ。やっとのこと退治したが、神様でも殺すことは出来なかった。そこで大きな石を乗せ魔物を封印したのじゃ」
「それが亀石なの」
ぼくが訊くとばあちゃんは「そうだべ」と頷いた。
「神様に食べ物を与えた若者が封印を護るよう言われた。それがかすみちゃんのご先祖だ」
「へえー、じゃあかすみちゃん家ってすごいんだね」
「そうだべ、千年もの間、この村をずっとずーと護っているんだ」
「千年も!」驚いてしまった。
じいちゃんが「そうじゃ」と誇らしげに頷いた。
「でも、今の地震で封印が破れて魔物が出て来ちゃたらどうなるの」
「何言ってるの、迷信よ、めいしん」お母さんは端から魔物なんて信じていない。
トントンと縁側のサッシを叩く音がした。顔を向けるとかすみちゃんがおいでと手招きしている。ぼくは立ち上がってサッシを開けた。
かすみちゃんが「見に行こう」と誘う。
ぼくは行きたいが、今の話を聞く限り、じいちゃんとばあちゃんは許してくれそうもない。お母さんに「ちょっと出掛けてくるね」と言った。
「また地震が来るかも知れないからダメ」ときつく言われてしまった。
「亀石に近づいてはいかん。もし封印が破れていたらおおごとだ。魔物に見つかったら向うの世界へ連れて行かれるべ」
じいちゃんには何処に出かけるかお見通しだった。だが、かすみちゃんが御札を出して、
「これ持ってるし、絶対川は渡らない。遠くから覗いて直ぐ戻って来る。お父さんたちも行ったんだから大丈夫」と言うことをきかない。
ばあちゃんは「聞き分けのねえ子らだべ」とため息をついた。
話が長引けば何を言われるか分からないので「行ってきます」とかすみちゃんと家を飛び出した。
「すぐに戻るのよー」とお母さんの声が聞こえた。
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