11人が本棚に入れています
本棚に追加
標準
「はっ?」幸助(こうすけ)
練習後の静かなグラウンドに幸助の声が響き渡る
小学生からの幼馴染で腐れ縁の幸助は声が大きいから
俺は周りを見渡して眉間にしわを寄せた
「本当に?本当にまだしてないの?」幸助
俺は両手で幸助の口を強めにふさぐ
幸助は横に首を振って俺の手をはがしながら言う
「付き合って1年半
キスぐらいするだろ?」幸助
奏(かなで)とは付き合い始めて1年半になる
お互いに忙しいから
交際期間は実質はもっと少ないと思う
もしかしたら
内容だけにしてみたら
付き合い始めに等しいのかもしれない
出会いは1年半より
もっともっと前だった
俺は高校からこっちに来たから
友達も少なかったし
一人で練習もしたかったから
隣町の公園にランニングもかねて自主トレに行っていた
この公園が気に入っていた
古びていて人も少ないから集中して練習できる
それに
あの子がいるから・・・
あの子はいつも
俺が練習を始める頃にそこに来た
いつも淡い色合いの女の子らしい服装で
ピンク色のヘットフォンをして静かに現れる
ブランコ横の大きな木の下が定位置だ
そこに着くと荷物を置き長く黒い髪の毛を一つにまとめる
大きなカバンから楽譜を取り出し
芝生の上にぺたりと座って
アコースティックギターを抱えて弾き始める
流行りの曲ではなく
なんとなく聞いたことがあるような独特な曲を弾いていた
俺は音楽には詳しくないから
上手だとか下手だとかは分からないけど
心地よかった
晴れている日は毎日
俺たちはそこで会っていた
話しかけたことは無かったけど
半年くらいした頃
5日間雨が続いた・・・秋なのに
俺は公園へは行けなかった
今年は梅雨時期にも雨が少なかったから
こんなに長く公園へ行けないのは初めてだった
6日目
やっと雨が上がった
俺はなんだかそわそわして
夕方
公園へ走って会いに行った
いや、練習しに行った
彼女はいなかった
2時間くらいいたけど
その日来ることは無かった
雨上がり間もなくて
芝生も湿っているから
今日は来なかったのかもしれないなと
勝手な想像を巡らせながら
俺は少し残念な思いを抑えた
だけど
それからその公園で彼女に会えることは無かった
最初のコメントを投稿しよう!