不器用な贈り物を君に

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「律、今日は砂場でケーキ作ろうよ。」 「ケーキ?いいよ!」 いつも通り、律と公園で遊んでいた日。 たまたま砂場に誰かのシャベルとバケツが取り残されていたのを見つけ、律が拾った。 大量の砂を小さな両手いっぱいにかき集め、バケツに入れて水で濡らして固めていく。 そのままひっくり返してできた砂山を踏みつけて平らにしていく。 靴に泥水が入ったが、気にせず無言で手だけを忙しく動かしていた。 空の色がだんだんと赤く変わって、公園からばらばらと人がいなくなっていく。 その場に二人しかいなくなり、夕方のチャイムが鳴ったときにようやく形になった。 「やっと完成した!」 泥まみれになった手と顔で、誇らしげに律が言う。 「でもなんで、ケーキ?」 律が首をかしげて不思議そうに砂のケーキをいじる。 サプライズをしようと思っていたのにな。 そう思って律を見るとキョトンとした顔と目が合った。 どきっ、と心臓が跳ね思わず目を逸らした。 そのまま目線を合わさずに言う。 「今日は何日?」 「えっと、9月12日。あっそっか!」 自分の誕生日って普通、忘れるものだろうか。 「お誕生日おめでとう、律。」 ケーキに律の名前をそっと書き入れると、律の目が楽しそうにキラキラと輝く。 ぱっぱと手の砂を払って律に得意げな顔をしたが一つ聞いてみた。 「ねぇ、せっかくの誕生日なのに。なんでみんな遊びに呼ばなかったの?」 二人だけでもいいじゃん、と律が拗ねる。悪いと言っているわけじゃないけれど。 「僕、誠太のこと好きだもん。」 「・・・?」 自分の顔がどんどん赤くなるのを感じた。 でも、違うのはわかっている。そう意味じゃないことは。 律に限ってそれはない、と自分に言い聞かせる。 あいつの好きっていうのは友達として、だ。 「俺も律のこと大好きだよ!」 一応あっているから。気づかないで、深く考えないで。 「これからも友達でいようね。」 自分の気持ちを隠すように我慢して言った時の、律の表情を俺は知らない。 ジリリリリリリリリリリリ・・・ 「朝か・・・。」 手探りで目覚ましを探して止める。5:30、いつも通りの時間。 ごしごしと眠い目をこすりながら布団をどけ、上半身を起こした。 またあの夢か。公園の思い出。 律の誕生日が近づくとあの夢を頻繁に見る。昨日のことのように鮮明に。
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