28人が本棚に入れています
本棚に追加
自分の部屋に戻り、学校鞄を取ってきて上着に手を通した。
「行ってきます。」
「「行ってらっしゃい。」」
見送りはいらないから、ばたんと音を立てて扉を閉めた。
いつもより少し早いから会えないな。
そう思っても近くの椅子に座り込むみ、しばらくじっと本を読んでいた。
いや、待ってる場合じゃない。
ようやくそう気づいて立ち上がると、どだだだだだだだ、と全力で走ってくる音がした。
「誠太!待って。」
振り向くと俺とは違う制服で、手を振る律がいた。
「律、おはよう。」
高校は違っても、家を出る時間が同じくらいだから朝はよく会える。
誰にでもそうなのかもしれないが、律は俺と話すときのの距離間がいつも近い。
楽しそうに学校のことを話す律を見て、いつだって可愛いなと思う。
それが嬉しくてさっきまでの家での会話がどうでもよく思えてきた。
「律、今日すごい元気じゃん。どうしたの?」
「わかる⁈今朝の星座占い、僕の乙女座は総合運が花五つだったんだ!」
満面の笑みで律は答えた。あまりの無邪気さに呆れつつも、つられて笑ってしまう。
「お前も占い見てんのか・・・。」
いやいや今学校で流行ってるんだよ、と律が言う。
「占い、信じてるの?」
律はうーん、と考えこむ。首を少し傾けて考え事をする癖は昔から全く変わっていない。
「信じてるっていうか、いいことが書いてあったら嬉しいじゃん?」
「ということは?なんか良い事書いてあったんだ。」
そういって問い詰めると慌てて律が顔を逸らす。気になる。
「おーい、律?なんて書いてあったんだよ。教えろって。」
律の肩をつかんでぐらぐらとゆする。ぶんぶんと律の頭が揺れるのが面白い。
「ちょ、わかった、わかったから!離せって・・・。」
ん、と怒った様子の律の肩を離した。ふてくされながら律が言う。
「その占いは、〈君しか知らない〉って言ってた。」
「君しか知らない・・・何を?」
不意をつかれた律はすごく動揺する。
「えっ、いや、誠太にはわからなくていいの!」
ふん、と律はそっぽを向いてしまう。子供かお前は。
ドソドレミド~♪
会話が途切れてやっと電車の発車メロディーが鳴っていることに気づく。
「ってもう電車来てる、乗り遅れるっ!」
律がドダダダダダダダ......と階段を駆け下りた。
「閉まるドアにご注意ください。」
最初のコメントを投稿しよう!