20-私達の城は

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「ハッハッハ!北条の支城など、この室岡兼信の敵ではないわ!!」 翌日、昼の新町大通りを馬に乗って闊歩する黒い甲冑姿の武将。 そう、彼の正体は室岡兼信公の子孫である。 今年の夏休みに私達が敵地へ乗り込んで行っては、祭りの武者行列への参加をお願いしたのだ。 とても気さくな人で一枝行きを快諾してくれただけではない,さらには先祖譲りの体格を生かした、豪快なパフォーマンスまで披露してくれた。 沿道に手をふるだけでは暴れたり無いか、後成隊とのコラボ演舞もこなしている様は、敵ながらあっぱれ。 確実に一枝市民や観客達をファンにしている。 「ほら、アンタ達もああいう風に振る舞わなくっちゃ!」 おしろいに紅さした姫姿の叔母さんが指さす。 「イ・ヤ・ダ!」 しかし侍女役の私と足軽役の妹は、即答し首をふった。 というわけで、ハイ。 室岡さんの子孫が参加して小田村の子孫が参加しないのはアレなので、武者行列に我々も絶賛参列中です。 ただ駒は矢野丸役,チョコと父さんは後正公と後風さん役で堂々歩いているのに、この姉妹はやる気なく、下っ端に潜り込んでは大人数にまぎれている次第。 「もっと私みたいに可愛い格好すればいいのに!」 「ヤだよ、目立つの恥ずかしいし。これが精一杯のおしゃれだよ」 「それに秋とはいえ太陽きついから、陣笠かぶってた方がいい。ホントはサングラスもしたい位」 「全く!」 叔母さんは首をすくめては「ね、枝丸!」と言った。 ただ足元にいる忠誠の犬は、こちらを完全シカトしては前を向いたまま歩いている。どちらの肩も持つ気はないらしい。 先頭の方では、後成隊の第二演舞がはじまった。 敵軍大将と後風役の父さんがつばぜり合いをしているが、大分後者はへっぴり腰だ。だが沿道の人達はとても楽しんでくれているようで、中には我が殿の応援をする人まで現れている。 また駒はシャイな性格だから、絶対それに近寄ろうとはしなかったけど、チョコは逆に積極的に絡んでは、兼信を本1冊コツンでもって撃破。さらには長い言い回しさえ噛むことなくこなし、緊張で頭が真っ白になった父のフォローすら完璧だ。 「あいつ、ヤバいね!」 いさみのシャッターを切る音は鳴りやまず、私達は自分達唯一の仕事である鬨を上げることすら忘れて、笑いあった。
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