25歳のネバーランド

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- 第1章 - 「あーもう25歳か」  会社の飲み会帰り、千鳥足でようやくたどり着いた郊外の小さなアパート。  一日の疲れとアルコールで憔悴しきった自分の顔を見て、鏡の前でアサミは大きなため息をもらした。  新卒で入った会社も、もう3年目。少しずつ仕事も板についてきたけれど、気づいたら20代も半ばを過ぎようとしている。 「年取りたくない」  心なしか、頬のたるみも、眼の下の窪みも、以前より目立ってきたように感じる。25歳。もう結婚、出産まで経験している友人も少なくない。それに男の視線も、自分より若い女たちに少しずつ移ってゆく。 「ずっと若くいたい……ずっと、若者でいたいなあ……」  とその時、2階にある彼女のアパートの窓がいきなりガラッと開く。 「こんばんは!ピーターさんです!」 「ぎゃああああーーー」  アサミはあまりの驚きに叫び声をあげる。 「びっくりしないで!あなたのその願い、叶えにきたんです」  アパートの周りの部屋を気にするように、その男は声のトーンを下げながら言う。 「ええっ!?あんた誰?」 「僕はピーターさん、若者だけの国、ネバーランドU25のオーナーです!」  アサミはまじまじと、男を見つめる。年のころは彼女と同じくらいだろうか、清潔感あふれるポロシャツにジーンズ姿の、一見どこにでもいそうな青年だ。 「何!?ピーターさん?ネバーランド?ピーターパンじゃなくって?」 「そう、僕はピーターパンの大人ヴァージョンの、ピーターさんです。僕の秘密の世界、ネバーランドU25に来れば、みんなずっと25歳を超えることはないんです。みんな一生、若者のまま」 「なにそれ?年とらないってこと?」 「そのとおり!さあ、僕と一緒に旅立ちましょう」  アサミはいまいち酔いが醒めないまま、彼の引く手に従ってアパートの外に出ていた。彼女の頭の中は、せっかくだからもう一軒行くか、三次会だ、くらいの認識である。2人は、アパートの前に止まっていたタクシー風の乗り物に乗り込む。 「なに、あんたのネバーランドって車で行くの?おとぎ話みたいに、空飛ぶんじゃなくって?」 「それは子供にお似合いの空想だよ。僕らは25歳の大人なんだから、タクシーで行くんだ」 「そっか……しかし普通の車で良かったよ。これがスモーク付きのハイエースとかだったら、確実にAVで人生終わったと思った」 「何言ってるの?」  酔ってるんだな、とピーターさんは少し同情を込めた目でアサミを見ると、運転手に出発を促した。
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