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- 第3章 -
そんなある朝、アサミがアパートを出ると、ピーターさんが立っていた。
「どう、ネバーランドでの生活には慣れた?」相変わらずの爽やかさで、彼は尋ねる。
「慣れたも何も、もうすごい快適だよ。このままずっとこの世界にいたいくらい」
「それは良かった。実は今日、ちょっと相談があって来たんだ」
アサミは少し頭をかしげて、次の言葉を促す。
「僕はもともと、老害にしいたげられることのない、永遠に若者だけの世界を作りたいと思って、このネバーランドU25を作るという仕事を始めたわけなんだけど」
話しながら、彼の顔は徐々に真剣なものになってゆく。
「このネバーランドU25にも、フック船長っていうすごい悪者がいてさ。それがもう老害の代表みたいなやつなんだよね」
そうきたか、とアサミは苦笑した。ピーターさん、ネバーランドときたら、まあそういうキャラもいるんだろう。さしずめあたしはウェンディ―か。
「えっと、じゃあそのフック船長とやらを倒さなきゃいけないわけ?」
「話が早い!さすが、僕が見込んでこの世界に招待しただけのことはあるね。ただ、一つだけ条件がある」
「何よ?」
「君が26歳の誕生日を迎えるまでに、彼を見つけて、君自身で奴を倒さなきゃいけない」
「ええっ!なんで?そーなの?なんであたしが?しかもあと一か月しかないじゃん。もし倒せなかったら、どうなるの?」
「誕生日までにフック船長を倒すことで、君はこの世界にいる権利を得るのさ。つまりもし倒せなかったら、君はこの世界にはいられなくなる」
それは困る。またあの、年配者が幅を利かしまくる世界にはできれば戻りたくない。
「で、どうやってそのフック船長を見つけるの?それに見つけたって、どうやって倒したらいいわけ?」
「まず、奴は20―09ナンバーのプリウスに乗ってる」
20-09……「フック」とでも読ませるつもりだろうか。そこはかとないおやじギャグ臭に、アサミは眉をひそめる。
「それで彼を見つけたら、僕の携帯番号に電話をかけて。どこにいても、すぐに飛んでいくから。それで、僕が倒し方をその場で教えるよ」
それからというもの、アサミは仕事以外の時間や週末を使って、フック船長を探し始めた。街に出ては、道路を走る車とそのナンバーを凝視する。
しかし、その車はなかなか見つからない。時間はみるみるうちに過ぎ去り、もう誕生日まで数日を残すのみになった。
アサミは焦り始めた。もう、時間がない。彼女は有休を使って数日仕事を休み、一日中フック船長を探すことにした。しかし、無情にも誕生日の前日がやってくる。彼女は朝から街に立ち続け、交通量の多い道を選んで車道を見つめ続けた。
そして、立ち続けてへとへとになった彼女が、絶望的な気分になり始めたその時―
「あれだー!」彼女は叫んだ。車種、ナンバー、間違いない。
アサミは車を追いかけるために走り出しながら、携帯でピーターさんを呼んだ。
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