25歳のネバーランド

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- 第5章 -  ぼんやりと、見慣れた天井が見えてくる。はっと気づき、アサミは飛び起きる。  そこは彼女のアパートだった。パジャマ姿で、布団をはぐ。枕元の目覚まし時計を見ると、朝の7時。カーテンの隙間から、眩しい朝日が細い線となって部屋に入り込んでいる。 「あれ?フック船長は?ピーターさんは?」  夢だったんだろうか。寝ぼけ眼で、アサミはスマホを手にする。何やら、今日は沢山メッセージが届いている。  ―お誕生日、おめでとう!  ―ハッピーバースデー!  ―今年も良い一年にしてね!  12月13日。ああ、あたしの誕生日。26歳に、なったんだ。  ここはどこ?まだ、あのネバーランド?  気になってしかたがないアサミは、いそいそと支度をして家をでる。会社に着くまでもなく、街には見るからに年配の人たちの姿がたくさん見て取れる。  あたし、帰って来たんだ。元の世界に。あたしは26歳になったんだ。そうか、こうして年を取って、少しずつだけど色んなことを学んで、生きてゆくんだ。  そう、若いままなんて、いなくていい。年を取って、いいことも沢山あるはずだ。  アサミは意気揚々とオフィスにたどり着くと、いつものようにパソコンを立ち上げる。  目の前には、彼女よりも年上の係長や、課長たちの姿が見える。あたしも、あんな年になる時が来るんだ。そう思いながら、アサミは彼らの姿を眺める。  すると、彼らの話し声が聞こえてくる― 「聞いてくれよ、夢だかなんだか分からないんだけど、いきなりピーター課長とかいう奴が現れてさ、ネバーランドU40とかいうところに連れていかれたんだ」 「ええっ課長もですか、実は僕も、ピーター主任とかいうのにネバーランドU30てところに連れていかれてひどく困ったんです」  な、なんだって……。  奴はこれから先も、すんなりと年を取らせてはくれないってわけか。  嫌になったアサミは、思わず机につっぷした。 (完)
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