オリオン座

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オリオン座

その時、オリオン座が見えた。「別れる?!」その時、明人が言った。「俺たちさ、惰性(だせい)じゃね?!」遥奏(はるか)は、「え、何が?」と答えることが精一杯だった。「惰性って何が?」被せるように明人は、答えた「だから、そういうところ!」「鈍いし、天然なのかなって思ってたけどさ、だから、つまりさ、嫌なんやだよ!嫌いなの、そういう、解ろうとしないとこ。」明人は、もう目も合わない▪▪▪。あ、オリオン座は滲んでいる▪▪▪。何でいつもこうなるのか。明人の気持ちが自分にないことと、涙と鼻水が同時に流れていることに今、やっと気がついた。 遥奏は、締め付けるような頭痛と口の中の気持ち悪さで目が覚めた。「頭、痛っ、気持ち悪っ▪▪▪」フラフラと起き上がり、洗面台で吐こうとしたが、胃の辺りが重いだけで吐けなかった。テーブルには缶ビールの空き缶2つが転がり、特別な日に開けるはずだった赤ワインが半分ほど空いていた。 「もったいないことしたな▪▪▪キャンティクラシコ」床に転がったコルクを拾い呟いた。 昨日まで恋人だった男のことよりも、赤ワインの味が落ちることが気になった。明人は、優しい男だった。私が飲み過ぎて吐いた時も介抱してくれた。会社での愚痴も何時までも聴いてくれた。夜中にピンポンダッシュされて怖かった何時だって駆けつけてくれた。 何時までも側にいると思っていた、それに甘え過ぎていた。 明人に似た笑顔のタレントがテレビの画面に映る。鼻の奥が痛んで涙でタレントの笑顔が滲んだ。 明人は何で怒ったんだっけ?! 私はいつもこうだ。他人の気持ちが解らない。相手は、あたしがわざと傷つける言葉を放ったと思っている。そんなつもりは無いのに。昨夜もいつものように明人に絡んだのは確かだ。仕事でつまらないことに腹を立て、その治まらないイライラを明人にぶつけた。そう、いつもの事だった。少なくとも、あたしはそう、ビール2杯で気持ちよく酔い、いつものノリで汚い言葉を楽しく放ったのだ。それを明人は、軽くたしなめた。私は言った。「出ました。明人の外面仮面!」明人の顔が一瞬ひきつるのが解った。 暫くの沈黙の後、無心にコーンバターを箸で一粒ずつ口に運ぶ私に、真顔の明人が言った。「もう限界。無理だわ▪▪▪」 店を出たすぐの歩道橋の真ん中で、私たちは別れた。真冬の東京の空にはオリオン座がはっきりと見えた。 依理は、一月前からダイエットを始めたと言って一緒にランチに行かなくなった。見栄えには、ダイエットの効果は解らないので、昨日「痩せたと思わない?」とロッカー室で聴かれたときに、「解らない」と答えた。 そしたら今朝から挨拶もしてくれない。 そういえば、女子の無視は中学からお決まりだった。自分が欲しい返事がない時、女子は急に不機嫌になる。しかも欲しい言葉だけでなくそこにある程度大袈裟なくらいの、気持ちがはみ出るくらいの抑揚が必要なのだ。 それが上手く出来る女子は、いつも誰かが横にいて、担任の先生からは、下の名前で呼ばれていた。依理は、そいいう学校カーストでも、上級階層にいただろう。 課長のデスクから、依理の甲高い笑い声が聞こえた。「▪▪▪キャバクラかよ、しかも デブ専。」頭をよぎったと同時に呟いていた。前の席に座る、出向のおじさんと目があった。
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