ほんの幸せ

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 悪夢のような一日だった。  高額の入札案件が取れず、課長から叱責された。  あんたがその金額で行け! って言ったんじゃないか……  私は現場の温度感を知ってたから、これじゃ取れないですよって進言したのに、必要以上粗利削る意味ないだろ、俺の言うことに逆らうのか! とわめき散らしていた。  仕方なくその金額で入札したら、案の定落ちた。  なのに私が勝手に金額設定をして取れなかった、と部長に報告しやがった。  そこからは報告書地獄の始まりだ。  部長は報告書を出させるのが大好きで、しかも尾びれ背びれをつけないと納得しない。  それに本当のことを書いたところで、どうせ課長が修正してしまうのだ。これ以上無駄なことはしたくなかった。  結局日付が変わる頃にようやく帰宅した。  もはや食事を取る力も残っておらず、速攻でシャワーを浴びてベッドにダイブした。  それと同時に猛烈な睡魔が襲いかかってきた。  翌朝、いつもの時間に目が覚めた。ここのところ目覚まし時計をセットした記憶が無い。どんなに疲れていても勝手に目が覚めてしまうのだ。 「はあ……仕事行きたくない」  私は薄暗い部屋で一人ため息をついた。倦怠感の残る体を無理やり起こし、ベッドから這い出した。  その時、私は恐るべき事実に気付いた。 「今日……土曜日じゃん!」  そう、今日は土曜日。会社は休みである。激務のせいで日にちの感覚がおかしくなっていた。 「幸せ……」  普段の土曜日ならここまで幸せな気分にならないだろう。ほんの些細な勘違いが私に思わぬ幸福感をもたらしてくれた。 「二度寝の特典付きだ……」  窓の外から聞こえる鳥のさえずりに耳を傾け、私は安らかな眠りの世界へと身をゆだねた。
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