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第一章『夢失く師の住み処探し』第十話 笑顔の表情(ソウキ視点のシオンver)
「うわッ。す、すごい……」
「どうかな、初めての魔法車は?」
初めて乗る魔法車というものに、ソウキが驚きを隠せずにいると、シオンが優しくこちらに微笑みながら、話し掛けてきた。
「すごいという気持ちでいっぱいですが、とても緊張もしています……ですが、シオンさんは、俺が必ず護りますから」
ソウキは、そう言って先程、己自身に誓ったことを思い出して、気持ちを奮い立たせる。
「ありがとう。君がそう言ってくれて、とっても嬉しい。でも、そんなに、気を張らなくても大丈夫だからね……」
シオンは一度、言葉を言い切ったのだが、まだ、何かを言いたそうにしていたのが、ソウキには感じられた。
女性が、こういうふうな感じに陥ってしまった時にどうすれば良いのか、ソウキには分からない。考えれば考える程、回っている脳の熱が手にまで伝わったような感覚になり、手汗が出てくる。仕方なく、ソウキはそれを自分のズボンの裾で拭こうとしたその時だった。
「「あっ……」」
二人の声が重なったのだ。その理由は……、
「そう言えば、あれからずっと手を繋いでいたんだね……」
シオンが恥ずかしそうに、繋がった手の方を見ながら、また、新たな緊張で固まってしまっているソウキに語りかける。
「ご、ごめんなさい、お、俺……」
ソウキも、シオンと同じく顔を赤くして手の方に視線を向ける。
恥ずかしがっている二人だが、繋いでいる手を離そうとは、どちらともしなかった。なぜなら、
「君がさっきね、あなたを独りにしないって言ってくれたから……」
ソウキは、シオンの話の続きをただ黙って聴く。彼女の発する言葉以外のことは、今は考えずに。
「今、こうして手を繋いでくれている。だから、そんなに気を張らなくても大丈夫だから、ね」
そう言うとシオンは、また、微笑んだ。そんな彼女の表情を見て、ソウキは少し前の彼女の顔を思い出した。
笑っているのに、何処か悲しんでいるように見える表情……。
──それは、彼女の目が涙で滲んでいたからであった。
きっと、ソウキとは違う意味での孤独を味わってきた彼女のそれは、受け入れ難い真実を受け入れるための覚悟の籠った、不安や恐ろしい現実を打ち倒すためのものであったと思われる。だから、どうしても、倒しきれなかった残りの悲しみや不安、恐怖が彼女の目から表れているように見えたのだった。
でも、それが、先程のソウキがあの言葉を己自身にだけでなく、彼女に向かって言い放った時、残っていた悲しみや不安、恐怖が一気に流れ出て、その後に、彼女の本当に流したかったものが涙として出たように思われたのだ。
その後の彼女の微笑む時の表情というのは、目の美しさから、とても綺麗なものに変わったと、ソウキは思う。
もし、その彼女の美しい微笑みを作るための手助けに自分がなっていたのかもしれないと考えると、ソウキはとても誇らしく感じる。
だから、恥ずかしい気持ちで、いっぱいなのだが、ソウキはシオンの手を、彼女の本当の微笑みをずっと手離さずにいるのだ。
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