第一章『夢失く師の住み処探し』第七話二択の感情1

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第一章『夢失く師の住み処探し』第七話二択の感情1

闇が自分の周りを包んでいるのが分かる。 『所詮、お前は何もできない』 ふとした時に、頭を(よぎ)ってくるこの言葉は、誰からの声でもあって、誰からの声でもない声で全身に響き渡る。 この言葉に呑み込まれてしまったら、幸分創希の耐えて抗ってきた今までが、全て消え去ってしまうように思えた。それが、自分には一番怖いことだと思ってしまう。 でも、それでも、耐えて抗って、心が傷付いてしまうのも怖いのだ。 だから、何もしなかった。いや、できなかったのだ。理不尽なことに従って、傷付かないようにすることも、耐えて抗って、傷付いて、それでも、自分を見失わない固い軸を作ることも。 二つの考えが、混ざり合ってしまったわけも分からない感情になり、いつの間にか、こう叫んでいた。 『「こんな俺だから、居場所も住み処も全部失くしてしまったんだ」』 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ 自分ともう一人の自分が、声を揃えてそう言っているのが分かる。 ──眠る世界と目覚めた世界 この二つの世界の自分の声が、重なった時に、お互いの世界の鍵が、今いる自分の世界の何処かにあるということが分かった。 夢の世界で眠りについた時、現実の世界が現れ、現実の世界で寝た時に見るものは、夢ではなく、もう一人の自分がいる世界で。 互いの世界で、自分は『夢』というものを見ることができないのだ。 だから、二つの世界の自分はお互いにお互いの世界の記憶が無いのだ。今、二つの世界の自分は、こう思っているに違いない。 夢の記憶なんてない。夢の中に、世界が広がっているのかなんて、創希には分からない。考えたことすらない。 目が覚めた後の世界なんて、夢の世界で生まれて、夢の世界にずっと住み続けているソウキには、知るはずもない。 そう、知るはずもないとずっと、思っていた。彼女のあの一言を聴くまでは。 『〇〇』 その彼女がくれた、たった一言の記憶は、今はまだ無い。でも、いつか記憶が戻ってくるはずだ。そう思う根拠は、簡単だ。 だって、 考えたことすらなくて、知ることすらできなくても、自分が今、するべきこと、いや、自分がやりたいこと、こうしていきたいことは、しっかりと自分の中にあるから。 だから、()ずは探してみよう。鍵を。お互いの世界の扉を開いて、光を差していくための鍵を。 鍵を見つけた時、 夢の世界で夢(記憶)を失くした自分が 目覚めた世界で夢(希望)を失くした自分が 〇〇になることができるから。
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