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第一章『夢失く師の住み処探し』プロローグ 狛犬の狐と巫女2
(はっ……)
夢の世界は、目覚めと同時に綺麗に消え去っている。もう、何を見たのかすら、覚えていない。
「涙……なんで?」
悪夢でも見たのだろうかと勝手に頬の上を流れている涙を拭きながら考える。
もし、夢の中ですら、幸せに生きられていないのなら、本当にもう自分の居場所なんて無いのかもしれない。
──どうか今日こそ、誰も傷つけず、誰からも傷つけずけられませんように。
そんな気持ちで毎日、ベッドから降り、自室の扉を開いて、自分の居場所の存在しない世界へと出ていく。
今日は日曜日で、苦手な学校への登校の必要は無い。それだけを聞くとほっとする気持ちになるが、家の中には、学校と同じく、関係が上手くいっていない家族が一日中いることになる。ずっと、自室に引き込もっているのも良いが、同じ家の中に居るということを思うと、少し心が落ち着かない。
(いつもの本屋にでも行くか)
創希は、よく立ち読みしたり、ラノベ本を買ったりしている地元の小さな本屋に行くことに決めた。
本屋の開店時間が近づくまで自室で過ごし、開店三十分前になるのを確認すると、着替えをし、鞄を掛けて玄関の扉の前に立った。
「いつもの本屋に行ってくる」
創希は、ただ一言それだけを家族に伝えると本屋に向けて家を出て行った。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
『お客様には、多大なご迷惑をお掛け致しますが、本日は体調不良のため、お休みさせていただきます。〇△□☆書店より』
本屋の前に着いたのだが、生憎、今日は張り紙の内容の通り、こんなことになってしまっているため、本屋で過ごすことはできない。
他に行くような場所など無いため、創希は、仕方なく家に帰ることにした。
帰りは、近道である森の木々に囲まれる神社の細い抜け道を使うことにした。創希は、この道を通る時には、必ず手を合わせ、お参りをすることにしている。
──ガサッ。
(なんだ……?)
狛犬の近くの草むらから、ガサガサと音がしている。
──ガサッ!
「うわっ!」
いきなり、何かが草むらから飛び出てきたのに驚き、創希は後ろに仰け反り返った。
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