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第1章
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その部屋は非常に落ち着いた古い趣を醸し出していた。高価なアンティーク製品で揃えられた家具類は部屋の造りと相まって観る者に安らぎを与えている。さすがに名門として名高い学園の学園長室だけのことはあった。
ただ、今のマイカにはそれらを感じ取れるほどの余裕は一切なかった。
マイカは母校というものに郷愁などという特別な感情は持ち合わせていなかった。卒業してわずか二年、まだ十代の身としては至って普通の少女の感覚であった。しかし、いざ校門をくぐる瞬間に感じた気恥ずかしさや、校舎内に足を踏み入れて感じた卒業生としての優越感、そして学園在籍時には気にも留めなかった学園長室に通されて湧き上がる不安感は幾らか感じられていた。
そして今、静かに微笑む初老の女性を前にして抱く畏怖の念はマイカから落ち着きを奪っていたのだった。
「どうぞ、楽にしてください」
学園長は優しくもしっかりとした口調で話した。
「は、はい……」
対して、マイカは焦り気味に返事をしていた。
決して怖いという感情を抱いているわけではなかった。単に母校の学園長に対して他人よりも敬意を表しているだけにすぎなかったのだ。
彼女の名は、マルガリータ・サンタクルス。マイカの母校であるマリアコート学園の創設者のひとりであり、学園長を兼ねた理事長でもあった。個人情報が保護されたテラレアでは彼女の年齢が幾つであるのか知る由もないが、初代学園長の彼女が今日までの六十年間を学園長であり続けていることを考慮すれば想像はついた。
マリアコート学園はアストラル・ドームシティに本校を置く、比較的メジャーな学園である。他に分校がいくつか存在するが、男女共学である本校を除いては全てが女子校であった。体系は認可された一貫校であり、早ければ四歳から入学できた。
ちなみに、マイカは六歳で入学し、十五歳で卒業していた。一般的に十六歳から十八歳での卒業が圧倒的に多いことを踏まえれば、少し早い方であった。また、入学当初より学内の寮に入っており、人生の半分以上をここアストラル・ドームシティで暮らしていたのだった。
マイカは視線をあちこちに泳がせる。手前のテーブルにはふわりと湯気の立つ紅茶と美味しそうなミルフィーユが並べられており、胃袋を刺激する。
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