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 城島や岡谷と話をした翌日、池上は例によって偽会計事務所で大森の前に立っていた。  午前中のこの時間は、大森班の者達がチラホラと報告に戻っては、また出て行く。それぞれが受け持つ案件について大森は把握し、必要に応じてアドバイスや指示を出す。  たまに組んで捜査に当たることもあるが、1人で行動する方が多かった。久しぶりに会う他の班員達と軽く挨拶を交わすものの、基本的にそれぞれの抱えている事案についてあまり話はしない。  刑事警察と比べて冷たく感じられるのは、こういう関係性もあるのだろう。だが、決してチームワークが皆無というわけではない。大きく動く時には、当然皆が協力し合う。  今回の件は、誰かに協力を求めるというわけにはいかないだろうな、と改めて思い、池上は溜息をついた。そもそも個人的な思惑で動き始めたのだ。  「草加が所属していた班の責任者と接触できた。もちろん秘密裏にだが」  大森が池上の顔を見上げながら言う。  池上は色めき立った。現在は解散となり、それぞれの捜査官はバラバラに飛ばされたと聞く。皆、大きな力にねじ伏せられたことで忸怩たるものがあるだろう。草加だけでなく、彼等の無念も晴らしてやりたいところだが……。  実際は、池上自身の明日の姿かもしれない。いや、命さえどうなるかわからない状況だ。  「班長だった男だが……」大森が続ける。「今は県警の資料室で日がな一日書類整理だそうだ。十歳くらい老け込んだように見えたよ。明日は我が身かもしれんがな」  肩を竦め、苦笑する大森。  「草加が探っていた事案について、何か話は聞けたんですか?」  池上が訊く。草加が所属していた班の者達の動きは、おそらく未だに監視されている。日の出製薬に通じる政財界の権力者の影響力が、警察内にも及んでいるのは明らかだ。大森もその元班長もそんな事はわかっているだろうし、気をつけてもいるだろう。なので、充分な話ができたのか不安があった。
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