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 「ある程度は、な。元班長も、敵の大きさは思い知っているようなのでいろいろはぐらかしながらだったが、話してくれた。まず、日の出製薬が海外に不正な薬物を流していたというのは、本当らしい」  やはり、佐野が言っていたのは事実だった。草加はそれを調べていたのだ。  「そしてそれを後押ししていた政界の人物達についても、草加はかなり掴んでいたらしい。不正に関わる組織図も、取引先リストも作成し、証拠と一緒にデータ化してあるようだ。だが、草加の死とともに、そのデータの所在は不明となった」  思わず唸る池上。敵の手に落ちたのか? それとも、草加はどこかに隠してあるのか? それさえあれば、日の出製薬の不正の全容が明らかになる。どうにかならないだろうか?  「俺の想像では、そのデータはまだ敵の手に渡っていない。幹部や理事の暗殺に関して、連中の影響力の及ぶ派閥が取り仕切るのもそのためだ。事情を知らない者達で構成された捜査本部が調べを進めるうちに、そのデータに行き当たってしまったら困るからだ」  「なるほど。なら、先に手に入れれば、こちらにも打つ手はある」  池上が頷きながら言うが、なぜか大森は渋い顔だった。気になったが、話は別の方へ進んでいく。   「それから、草加が巻き込まれた火災についてだが、当日の沢の北峠分署の動きが記された報告書を手に入れた。ここに文書ファイルとして入っている。後で確かめろ」  そう言って、大森が小さなケースを差し出した。受け取ってみると、マイクロSDカードが入っている。  「特に不審な点は見られないが、通報を受けてから、どう処理しどの警察官がどうやって現地に向かったかが記されている。そして、その後の被害に至る状況も、だ」  最後の方で目を伏せていたのは、そこで草加が命を落としたことがわかっているからだろう。  「ありがとうございます」  改めて頭を下げる池上。
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