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「これからどう動くつもりだ?」
大森が訊いてきた。やはり、どこか表情がさえない。何かあったのだろうか? 疑問を持ちながらも、普通に応えることにした。
「明日には、沢の北峠の辺りに行ってみようと思っています。しばらく滞在するかもしれません」
「沢の北峠へ? 分署の跡地でも確かめるつもりか? あるいは、猟奇連続殺人について現地で調べを?」
「それもあります」
まさか、エリカという名の暗殺者とともに動くとは言えない。池上は簡単に返事をした。
「あまり大っぴらに動くと目立つぞ」
「はい。充分気をつけます。それと、草加が子供の頃から世話になっていた神社があるんです。そこを訪れてもみたいです」
「神社?」と怪訝な顔をする大森。
佐野の話の中に出てきた、草加が学生の頃仕事を手伝ったという神社だ。調べてみて、それが「影狼神社」という所だと掴んでいた。名に狼がつくのに大いに興味を惹かれたが、まだ人狼に関係があるかどうかはわからない。
「神職の御厨鉢造という人物とは、かなり親しかったと聞いています。草加が沢の北峠分署に潜伏していた頃、接触があったかもしれません。あたってみたいと思います」
そこに何か特殊な薬があるらしく、それで草加が驚異的な回復力を見せた、というのは噂話のようなものであり、信憑性についてはまだわからない。この場では伏せておいた。
「そうか……」
大森がそう溜息のように漏らし、イスに大きく背を預けて反り返った。ここでそのような姿を見せるのは珍しい。やはり何かあったようだ。そして今、言いにくいことを言おうとしている。それがわかったので、池上は覚悟をして待った。
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