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 「実はな、今朝早く、ここに来客があった。俺一人の時だ」  非常に険しい表情になっている。よほど不快な人物だったのだろう。  「誰ですか?」  「羽黒、とだけ名乗った。その後探りを入れてみたが、警察庁警備局の警備企画課に、羽黒基樹という男がいる。細かいことはわからないし、どんな業務を受け持っているのかも見えてこない。おそらくだが、公安裏部隊だ。その、一つの部隊のリーダーか何かなんだろうな。只者じゃない雰囲気がプンプンしていた」  「えっ?!」  息を呑む池上。いよいよやって来たのか、と感じる。腹の奥に重い固まりでも送り込まれたような感覚に陥った。  「日の出製薬のまわりを嗅ぎまわることはやめろ、とはっきり言ってきた。何のことだ? と惚けたが、こちらの動きはある程度見られていたようだ。お前の名も出されたよ。草加がいた班のことを匂わせて、同じ事をできると脅しもかけていった」  「班長、どうするつもりですか?」  なるべく感情を表に出さずに訊く池上。  大森は池上を見上げる。視線が合う。珍しく、彼の目に迷いの色が見えた。  「もう、俺が何かその件に関して探りを入れることはできない」  溜息を漏らすように言う大森。  無念ではあるが、池上も仕方ないことだと思う。明らかな警告を受けて、それを無視した場合、公安裏部隊は強攻策に出るだろう。池上や大森だけではなく、他の班員達の人生をも大きく変えてしまう。  離脱、という言葉が頭に浮かんだ。池上は止まるつもりはない。この件については、どこまでも調べる。だが、そのためにはこの班にいては駄目だし、場合によっては警察を辞める羽目になるかもしれない。警察官でいられる間に事件の全容が判明する可能性は、かなり低いように思われてしまった。
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