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「池上……」声を潜めながら大森が呼ぶ。「おまえはしばらく、休暇をとれ」
「え? 休暇、ですか?」
意外な提案に思わず怪訝な表情になる池上。
「どうせ、どうなったとしてもおまえは続けるんだろう? 勤務中であれば、俺は放っておくワケにはいかない。だがな、休暇中におまえが何をするかなど、知ったことではない」
「班長……」
息を呑み、大森の目を見つめる。やはり、この上司は自分にとって最高だと思えた。
「それから、これは念のために持って行け。お守りだ」
小さな図他袋のような物をテーブルの上に置いた。池上はそっと手に取る。ズッシリと重い。少しだけ口を開けて中を確かめる。
これは……!
拳銃1丁と銃弾、弾倉が入っていた。
「公安裏部隊は荒っぽいこともする。いざというときは、迷わず使え。おまえは射撃も格闘術もそこそこできるが、連中も訓練を受けている。充分気をつけてな。そんなヘマをやるとは思わんが、もしそいつを持っていることを誰かに咎められたら、押収品を捜査の必要上一時預かっているだけだ、と言っておけ。俺の方でもそう口裏を合わせる」
「ありがとうございます」
深く頭を下げ礼を言うと、池上はドアへ向かう。
「待ってるぞ。無事に休暇を終えて、戻ってくるのをな」
後から大森がそう声をかけてきた。
もう一度頭を下げる池上。そして、大森班の拠点を後にする。
戻ってきたい。だが、できるだろうか……?
小さなビルを見上げ、池上は珍しく感慨を覚えた。
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