83人が本棚に入れています
本棚に追加
32
今日は土曜日なので、高校は休みだ。とはいえ、友人と会う予定はない。前期期末試験を控えているうえに、3年生であるため受験勉強もしなければならない。皆、それぞれ忙しいのだろう。
卒業後は神職の養成所へ進むことにしている陽奈にも、それなりに覚えていかなければならないことはある。しかし、幼い頃からこの神社の社務を手伝ってきたので自然と身についてきたものは多かった。
今日も朝から、境内の掃除に勤しんでいる。
その姿は、同級生達から見ると神聖で清らかに感じられるのかもしれない。
これまで何度か男子からつき合って欲しいと言われたが、皆、どこか優等生タイプでおとなしそうな人が多かった。それぞれ丁重に断ったのだが……。
女子の友人も、陽奈に対しては精神面で何かを頼るように接してくることが多い。神社の娘として社務をこなし、その所作を自然と身につけているのが、厳かに見えるようだ。
どちらにしても、陽奈が精神的に高みにいるように感じているらしい。実際はそんな事はないのに……。
しかし、それでも良かった。陽奈にとっては、あまり近づきすぎてもらっても負担になることがあった。
なぜなら、陽奈には見えてしまうのだ。ある時はその人の思いが、そしてある時はその人の過去が、未来が、行いが、悩みが、悪意が、痛みが……。
ビジョンとして見えてくる。全てではない。その時々の状況で、心の目に映るものは違う。だから、相手の全てを見抜くことなどできない。
とはいえ、その人物の現状や、その時の本心が朧気ながら伝わってきてしまうと、普通に接することは難しい。
なので、友人や同級生達とも、これまで一定の距離をとってつき合ってきた。
この不思議な力は、物心ついた頃からあった。もしかしたら、と思う。父は何も言わないが、秘薬のせいなのかもしれない。
陽奈は幼い頃病弱だった。もしかしたら命に関わる病に罹ったこともあるのかもしれない。その時にあの秘薬を服用したのではないか?
瀕死の重傷を負った恭介さんのように……。
最初のコメントを投稿しよう!