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片方は、エリカと呼ばれる暗殺者――。
凄腕らしいが、われわれ公安裏部隊としては、相手にとって不足はない。
訓練を積んできた羽黒の部隊だが、それを活かす場が、この日本には極端に少ない。邪魔者の暗殺などを何度か実行してきたとはいえ、戦闘力に秀でた相手とは訓練以外では戦ったことがない。今回は、良い機会だ。
聞いたところでは、まだ二十代半ばの女性だという。我々から見れば所詮小娘だ。どれほどのものか、確かめてやってもいい。
そしてもう一方――福沢の推理では、人狼だという。数々の殺害現場を見れば、それを裏付ける痕跡も多い。
鋭い牙や爪で引き裂かれたような遺体。えぐり取られた心臓。その姿を目撃した者もいる。銃撃を受けても死なないという話さえあった。実際、先日は、サブマシンガンを持った羽黒の部下達も殺害されている。
どうやら、本当に化け物らしき者が存在するようだ。
エリカとその化け物が共闘している可能性もあった。大川殺害の際は二者が同時にその場にいたらしい。
どういう状況なのかわからないが、そろって始末できるならそうしたい。
「あの親子をマークさせる。その、あんたの言う人狼とやらと接触する事もあるかもしれない。場合によっては、手荒なことも必要になるだろうな」
羽黒が言うと、福沢は頷いた。
「御厨という神職は、頑固でずっとこちらに協力しようとしなかった。秘薬が伝承の通りなら、とてつもない価値があるというのに、どこまでも隠し通そうとしている。そんなことは、薬学の発展を考えるても許せない」
力説する福沢。羽黒とは考えにズレがあるようだが、人狼とやらに対処するためには必要な男だ。しばらく側に置いておくのは仕方ない。その見返りに、秘薬とやらを任せてやっても良いだろう。ただし、研究の成果はこちらにまず報告してもらう。使用法もこちらで判断する。
窓の外を流れる田舎街の景色を見ながら、羽黒はほくそ笑んだ。
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