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 早くに出てきたので、まだ早朝のうちに沢の北峠近くまで来られた。幹線道路は空いている。その路肩に車を停めると、池上は目の前に聳える山々を見た。合間から太陽の光が射している。  昨日大森から受け取った銃が腰のホルスターに収まっていた。ズッシリとした重みを感じる。  こいつを使わなければならないような事態が、いつ起こるか?  のどかな景色とは裏腹に、池上の胸の内にはどんよりと黒い感覚が流れ込んできていた。  しばらくすると、グリーンで洒落たコンパクトカーが池上の車の後に停まる。  降り立った女性に陽の光がふりそそぎ、そのスレンダーなシルエットを浮かび上がらせた。  今日はまとめていないらしく、セミロングの髪が風になびく。デニムパンツにジャケットという軽装ではあるが、おそらく素材は強く動きやすいものだろう。腰にも足にもポーチをつけている。ジャケットの内側にも、たぶんホルスターがあるはずだ。いったいどんな武器を、どれほど身につけているのか?  草臥れたスーツに一丁の銃だけ携えた池上は、思わず苦笑した。  「今日は何て呼べばいい? エリカか、それとも北川利香か?」  池上が声をかける。  「好きにすればいいわ。でも、ごっちゃにしないように気をつけてね」  フッと笑いながら応えるエリカ。  「大川康介が殺された。俺は詳細を知らない。あれは、エリカの仕業か、それとも人狼なのか、どっちだ?」  「微妙なところみたいね……」  彼女が簡単に説明をする。聞き終えると、池上は溜息をついた。  「人狼と一対一で対峙して、その声も聞くとは、とんでもない女だな」  「失礼ね、レディに対して」  イタズラっぽく笑うエリカ。その横顔は美しく、とても凄腕の暗殺者だとは思えない。
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