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「で、どんな声だったんだ、人狼は?」
池上が訊く。エリカは首を振った。
「なんと言っていいのかわからない。本当の声なのかも定かじゃないし。ただ、それほど年配でもなく、かといって若者と言えるほど若くもない男性、っていう感じだったかな?」
「それにしても、会話ができることがわかったな。今度出会ったらどんなお話をしようか?」
「何でもいいけど、できれば良いお茶でも飲みながらがいいわね。血生臭い場所じゃなくて」
「たしかに」肩を竦める池上。「じゃあ、行くか」
頷き合う2人。それぞれの車に戻る。そして、閉鎖された神奈川県警松田警察署沢の北峠分署へ向かう。
ほんの数分で着いた。
すぐ側に幹線道路が延びているが、裏には鬱蒼とした森が広がっていた。今は朝なので大型のトラックが数台行き交い活動的に見えるとは言え、もし深夜であれば、闇と静寂に包まれてまた違った雰囲気になっていることだろう。
分署の前に駐車場があったので、2人ともそこへ停めた。
当然、敷地内に立ち入らないように、いくつものロープが貼られていた。だが2人とも、構わずに入って行く。
割れた窓はそのままだった。そこから陽の光が射し込み、ガラスの破片に乱反射し暗い建物内で妙な灯りとなっている。
ロビーのカウンターの奥には、散らばったイスがそのままにされていた。
池上とエリカはそれぞれ内部を見てまわる。
資料やら細かな物品は運び出されていた。フロアは血の海だったはずだが、一応清掃もされたらしい。しかし、書棚やボードなど大きな備品はそのままだった。中には血がこびりついて残っている物さえある。
壁に大きなひっかき傷のようなものがあった。人狼の鋭い爪だろうか? そしてその近くの壁には、明らかに弾痕が……。
警官達と人狼が争った痕跡があちこちにあった。そうやって改めて見ると、生々しさが蘇ってくる。
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