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 「ここか……」  呟くように言って、池上が立ち止まる。車は別の場所に停め、2人、近隣の様子を見るためにしばらく歩いてきた。  市道に沿って、小高い丘が続いていた。斜面には何本もの木々が生い茂り、林となっている。  その一部に、上へ続く階段があった。頂上付近に鳥居が見える。  階段の脇に、門柱というのか石柱というのか、小さく四角い石が置かれ、そこに『影狼神社』と彫られていた。  隣でエリカが同じように石の階段を見上げている。  「もちろん、気づいているわよね?」  彼女がまったく池上を見ずに、小声で訊いてくる。  「ああ。見張られているな。だが、俺たちが尾行されたわけじゃない。それならもっと前に気づいているし、ここまで案内してやることもなかった」  池上も彼女を見ず、何気なく景色を眺めるようにしながら応える。  「そうね。どうやら、この神社に張り込みをしているみたい。でも、普通の警察じゃあないわね」  「公安の裏部隊かもしれない。連中も、俺たちと同じようにここに目をつけた、っていうことか? それにしては早い気もするが……」  「何かあるなら、きっと仕掛けてくるでしょう。そうしたら、相手をしてやればいい。とりあえず、私たちは私たちで動きましょう」  頷く池上。そして階段を上り始める。エリカが続いた。  鳥居まで来ると、いったん振り返る。近辺を見下ろすことができた。のどかな田舎街、という感じだ。  参道の入り口に設えてあるのは、狛犬のようであって、よく見ると違う。牙が鋭く見え、表情にもどこか野性味が感じられた。これは、狼だろうか。  境内のまわりを塀が囲んであり、その向こうは林が続いている。1カ所だけ木々が途絶える場所があり、家が一軒あった。古いが立派な建物だ。おそらくそこに、御厨鉢造は住んでいるのだろう。調べたところだと、一人娘と暮らしているらしい。
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