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2人はまず、あたりまえのように参拝する。拝殿に向かい、賽銭を入れ手を合わせた。
そして、ゆっくりと境内を散策するように歩く。
他には誰もいなかった。社務所もあるが、今は窓も閉められている。塀の向こうの自宅らしき所へ行ってみるか迷った。
そうこうしていると、塀の一部が開いた。目立たなかったが引き戸になっていたようだ。
そこを通り抜けて、一人の人物が現れた。背はそれほど高くなく、中肉中背。どこにでもいそうな50代くらいの男性だった。
短髪で一見厳つい顔つきだが、目は温和だ。本当に、特に変わったところのない中年男性――だが、池上は感じた。隣に立つエリカも同様のようで、真剣そうな視線を外さない。
彼こそが、御厨鉢造に違いない……。
ただ者ではない――それは、何かの優れた能力を持つ者が放つ気配とは違う、もっと厳かで気高いもののような感じだ。
装束を身につけていないのは、特に社務を行うつもりはなく、朝の様子でも見に来たからだろう。
男性の方も、2人を見て何かを感じたらしい。一瞬目つきが鋭くなり、だがすぐに元の柔和なものに戻る。
この人には、誤魔化しや嘘は通じない……。
そう思った。取材中のフリーライターとして調べまわろうとしていたが、彼にはそんな小細工は通用しないだろう。エリカもそう感じとったらしく、池上を見て目で意思を伝えてくる。
相手は任せたわよ、と言っているようだ。
「こんにちは」
相手の、御厨鉢造と思われる男性の方から声をかけてきた。穏やかで控え目な笑顔だ。
「こんにちは」と2人そろって頭を下げる。
「若い方々が、朝から参拝とは珍しい。ここのような小さな神社としては、嬉しいことですね」
「しっかりお参りさせていただきました。何か、キリッとした空気を感じさせる神社ですね。それは、狼を信仰していることからくるのでしょうか?」
池上がそう言うと、男性は「ほうっ」というような顔になる。
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