プロローグ

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 今回のターゲットは、これまでと趣向を変えてある。  警察署だ――。  ただ、駆け込んでしまうとそのまま逮捕されかねないので、大きく響き渡る爆発音を外から聞かせ、飛び出してくる警察官達を離れた場所から撮影するつもりだ。  狙う警察署についても、だいぶ思案した。  大きな署だと深夜だとしても詰めている警察官は大勢いるだろう。本来なら多数の人間が右往左往する様子がいいのだが、相手が警察となるとそうもいかない。あとから事情聴取ならかまわないが、その場で逮捕はされたくない。動画を押えられては元も子もないからだ。  かといって、小さな交番などでは派手さに欠ける。  迷い、いろいろ調べた末に決めたのが、この先にある神奈川県警松田警察署「沢の北峠分署」だった。  小規模な警察施設で、所属する警察官は20名ほど。松田警察署の地域課からの出向というかたちで、頻繁に交代しながら勤務する。神奈川県足柄地区の山間の地域から静岡県のやはり山間部に向かう県道の途中に位置していた。まわりはほぼ山であり、自然豊かな地域に無骨な建物がある。  東名高速や国道246号を避ける車が利用することが多い道であるが、近年違法投棄や野生動物の乱獲という問題も多く発生しており、そのために分署という特殊な警察施設が設置された。  半年程前、近隣にある製薬会社の研究施設が火災になり、駆けつけた沢の北峠分署の警察官が巻き込まれて殉職したことで、少し話題となっていた。  そこをターゲットにする――。  当然問題にもなるだろうし、非難もかなり受けるだろう。もちろんそれも想定内だ。話題になれば、それでいいのだ。  目的の場所に着いた。沢の北分署の手前に車を停めると、それぞれ準備を始める。  後藤はワイヤレススピーカーを茂みに隠しに行った。佐藤はカメラを手にスピーカーと逆方向へ小走りに駆けていく。  山田が合図を送る。3分後に大爆発の音を響かせる。おそらく慌てて警察官達が飛び出してくる。深夜なので、詰めているのは5人からせいぜい10人未満に過ぎない。だが、複数の警察官が慌てて飛び出してくる様子はさぞかし滑稽だろう。
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